プレスリリース
 

平成21年 6月19日

独立行政法人 森林総合研究所
 
簡単で迅速なマツ材線虫病診断法を開発
−“マツ材線虫病診断キット”の発売について−
 

ポイント
 ・ 簡易でかつ迅速なマツ材線虫病診断法を開発
 ・ マツ材線虫病の診断が約90分に大幅短縮
 ・ 森林組合、樹木医など現場の方にも診断が可能
 ・ マツ材線虫病の早期発見、早期対策が可能

 
 
概要

 独立行政法人森林総合研究所は、従来よりも格段に簡易でかつ迅速なマツ材線虫病診断法を開発しました。枯れたマツの材片からマツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウのDNAを検出することによって診断する方法です(DNA診断法)。このDNA診断法では、従来の診断の際に不可欠であった線虫を同定するための専門的な知識や技術を一切必要としないことから、専門家以外の方でも容易に診断することができます。本病を早期に発見するための現場対応型ツールとして今後の利用が期待されます。本診断法は(株)ニッポンジーンから“マツ材線虫病診断キット”として発売されました。

  予算:森林総合研究所交付金プロジェクト
       「マツ材線虫病北限未侵入地域における被害拡大危険度予測の高精度化と対応戦略の策定」

 
 
問い合わせ先など

 独立行政法人 森林総合研究所  理事長 鈴木 和夫
 研究推進責任者: 森林総合研究所 研究コーディネータ  藤田 和幸
 研究担当者: 森林総合研究所 東北支所
 生物被害研究グループ  相川 拓也
森林総合研究所 森林微生物研究領域  菊地 泰生
 広報担当者  : 森林総合研究所 東北支所 連絡調整室長 佐々木 清和
  Tel:019-641-2150(代)  Fax:019-641-6747
森林総合研究所 企画部 研究情報科長 荒木 誠
  Tel:029-829-8130  Fax:029-873-0844
 
 
開発の社会的背景

  マツ材線虫病は日本の森林に最も甚大な被害をもたらしている森林病害です(写真1)。本病の診断のためには、枯れたマツから病原体であるマツノザイセンチュウ(写真2)を検出する必要があります。これまでの一般的な検出法は、枯死したマツから材片を採取し、その材片を水に浸して材内にいる線虫類を分離した後、顕微鏡下でマツノザイセンチュウの存在を確認するという方法です。しかし、この方法では線虫の形態に関する詳しい知識や、顕微鏡などの特殊機器が不可欠であることから、これまで本病の診断はおもにこれらの人材や機器を備えた専門研究機関に限られてきました。そこで私たちは、各現場でも本病の診断が行えるよう、簡易な診断技術を開発しました(特許出願中:特願2008-121316)。

 
研究の成果

  新しい診断法ではマツノザイセンチュウのDNAを利用します。すなわち、枯死したマツの材内に存在するマツノザイセンチュウのDNAを検出することでマツ材線虫病と診断する方法です(DNA診断法)。このDNA診断法は以下の3つのステップで完結します。

1)マツ材片からのDNAの抽出
 

  まず、枯死木から材片を採取します(写真3)。その材片の一部をDNA抽出液の入ったチューブに入れ(写真4)、約55℃で20分間、次いで94℃以上で10分間保温します。この操作により、マツノザイセンチュウのDNAが抽出液中に溶け出します。

2)マツノザイセンチュウのDNAの検出
 

  1)で得られたDNA抽出液の一部を、検出液が入ったチューブに加え(写真5)、約63℃で60分間保温します。これはLAMP法を利用したDNA検出法で、マツノザイセンチュウのDNAが存在するときにだけ特異的に反応がおこります。

3)目視による判定
 

  反応の有無は溶液の色で判断できます。すなわち、液体が緑色の蛍光色を示していれば陽性(材片の中にマツノザイセンチュウのDNAが存在する)、液体の色が反応前と全く変わらず無色であれば陰性(材片の中にマツノザイセンチュウのDNAは存在しない)を意味します(写真6)。

DNA診断法の特徴
 

  既往の方法で2日間要していた診断が約90分で完了します。よって、これまでよりも大幅に診断時間を短縮することができます。また、マツノザイセンチュウ以外の生物のDNAには反応しないので近縁な他の線虫種を誤同定する心配がありません。さらに、液体の色で陽性あるいは陰性を判定できるので誰でも一目で結果を知ることができます。このように、本診断法は専門的な知識や技術を一切必要としないことから、人を選ばない操作性に優れた手法と言えます。

  
成果の活用方法

このDNA診断法を用いることで、専門研究機関だけでなくより現場に近い組織、たとえば都道府県の林業関係機関、森林組合、樹木医なども簡単に診断でき本病の早期発見と早期対策につながります。この新しい診断技術は(株)ニッポンジーンから“マツ材線虫病診断キット”として本日(6月19日)発売されました。詳しくはhttp://nippongene-analysis.com/index.htmlをご覧ください。

 
 

用語解説

LAMP法
  Loop-mediated isothermal amplificationの略称。一定の温度条件下で目的のDNAを増幅させる方法(栄研化学株式会社が開発)。

 

 

写真1 マツ材線虫病被害地
写真1 マツ材線虫病被害地(東京都神津島村、1998年撮影)

写真2 マツノザイセンチュウ
写真2 マツノザイセンチュウ(体長約1mm)


写真3 枯れたマツから材片を取る
写真3 枯れたマツから材片を取る


写真4 DNA抽出液
写真4 DNA抽出液
材片をDNA抽出液に浸し、55℃で20分間、次いで94℃以上で10分間保温する。
写真5 DNA検出液
写真5 DNA検出液
DNA抽出液の一部をDNA検出液に加え約63℃で60分間保温する。

写真6 液体の色で判定する
写真6 液体の色で判定する
 

 


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