プレスリリース
 

平成22年 1月 6日

独立行政法人 森林総合研究所
 
ニレ類立枯病菌の分布について
 

ポイント
 ・ 森林微生物の探索・収集を進める中で、北海道でニレ類立枯病菌の分布を確認

 ・ 国内のニレ類には立枯れ被害の報告は無い。

 ・ 今後は、どのようにして国内に分布したかなどの研究や実態調査を継続

 
 
概要

  森林総合研究所は、国内の森林微生物の探索・収集を進める中で、イギリス森林研究所(英国)の協力を得て、ニレ類立枯病菌(Ophiostoma ulmiとそこから種分化したO. novo-ulmi)が日本にも分布していることを発見しました。
   本病は、北米、ヨーロッパにおいてニレ類に被害を与える樹木の病害ですが、国内におけるこれまでの探索では見つかっていませんでした。今回、北海道においてハルニレ、オヒョウの倒木やシカによる剥皮被害木及びそれに穿孔しているニレノオオキクイムシ(Scolytus esuriens)からOphiostoma ulmiおよびO. novo-ulmiの両方が検出され、北海道における分布が明らかになりました。
   現在まで国内のニレ類において立枯れ被害の報告はなく、また、本病に対して国産ニレ類は抵抗性があるという見解があることから、危急な被害の発生はないと考えられますが、従来国内で確認されていなかったニレ類立枯病菌の分布が明らかになったことから、今後も引き続き、その歴史や現状、在来のニレ類やキクイムシとの関係を明らかにするため、遺伝子解析を進めるとともに、現地での調査を継続することとしています。

  予算:地球環境研究総合推進費「非意図的随伴侵入生物の生態リスク評価と対策に関する研究」

 
 
問い合わせ先など

 独立行政法人 森林総合研究所  理事長 鈴木 和夫
 研究推進責任者: 森林総合研究所 研究コーディネータ  藤田 和幸
 研究担当者: 森林総合研究所
  森林微生物研究領域 森林病理研究室  升屋 勇人
 広報担当者  : 森林総合研究所 企画部 研究情報科長  荒木 誠
  Tel:029-829-8130  
  Fax:029-873-0844
 
 
研究の背景

  Ophiostoma属菌は、木材に変色を引き起こす種類やニレ類立枯病菌(Ophiostoma ulmiとそこから種分化したO. novo-ulmi)などの樹木病原菌を含んでいます。そのため、森林総合研究所では、国内の本グループの探索・収集を進めており、その過程で北海道において、ハルニレやオヒョウの倒木やシカによる剥皮被害木及びそれに穿孔しているニレノオオキクイムシから、ニレ類立枯病菌に類似するOphoistoma属菌を分離しました。
  ニレ類立枯病はScolytus属のキクイムシ類により媒介され、ニレ類に被害を与える樹木の病害として知られています。日本に生育するニレ類(ニレ、ケヤキ、エノキなど)には、これまで本病による立枯れ被害の報告はありませんが、北米やヨーロッパのニレ類に対しては重要な樹木病害です。今まで十分な探索が行われてこなかったため、国内に存在するかどうかは不明なままでした。
  今回の探索で見つかった菌が当該菌かどうかの検討を行うため、ニレ類立枯病菌に豊富な知見を有するイギリス森林研究所(英国)の協力を得て、分離された菌類の同定試験を行いました。

 
研究の内容及び成果

  北海道においてハルニレ及びそれに穿孔しているニレノオオキクイムシ(Scolytus esuriens 図1)から複数分離した菌類について、コロニーや胞子の形態観察、DNA解析を行った結果、この菌類は、Ophiostoma ulmiおよびO. novo-ulmiであることが明らかになりました。また、両者は同じ場所に存在している場合もあることが確認されました。北海道各地で、ニレ類でのキクイムシとその孔道の調査を行った結果、ほぼすべてでこれら2種の菌のどちらか、もしくは両方が出現し、北海道においては広範囲に分布していることが明らかになりました。

  
成果の意義と今後の期待

  今回の研究によって、従来国内で確認されていなかったニレ類立枯病菌が、北海道に分布していることが明らかになりました。国内では、現在、本病による被害の報告はありませんが、今回の発見は、森林保護などに関する新たな基礎知識として重要です。
  今後は、ニレ類立枯病菌の病原性の調査を実施するとともに、どのようにして我が国に分布するようになったかを正確に把握するなど、その歴史・現状、在来のニレ類やキクイムシとの関係を明らかにしていくことが重要であり、このため、遺伝子解析を進めるとともに現地での調査を継続することとしています。

 
本成果の発表論文

タイトル:

First report of the Dutch elm disease pathogens Ophiostoma ulmi and O. novo-ulmi in Japan(日本におけるニレ立枯病菌、Ophiostoma ulmiおよびO. novo-ulmiの初報告)

掲 載 誌: New Disease Reports(新病害報告)
巻号(年): 20号(2009年)
著  者:

升屋勇人、Clive Brasier(イギリス森林研究所)、市原 優、窪野高徳、神崎菜摘

U R L: http://www.bspp.org.uk/publications/new-disease-reports/ (新病害報告)
 


図1 ニレノオオキクイムシ
図1 ニレノオオキクイムシ

Ophiostoma ulmiのコロニー O. novo-ulmiのコロニー
図2 Ophiostoma ulmi(左)およびO. novo-ulmi(右)のコロニー(2%麦芽エキス寒天培地)
 

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