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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.30
1994.08.31

苗場山ブナ天然更新試験地から



 前橋営林局六日町営林署の苗場山国有林に「ブナ天然更新試験地」が あります。試験地の標高はl,000〜l,450mで,積雪4 m以上にもなる豪雪 地帯です。この試験地は,「どれくらい母樹を残して,どのような地床 処理(更新補助)をするのが,ブナ林の天然更新にとって最も適切か」と いうことを明らかにするために,前橋営林局と森林総合研究所(当時林業 試験場)の共同試験地としてl967年に設定されました。そして,「元の ようなブナ林が復元されるまでに,どのような道筋をたどるのか」を確か めるための調査が,既に25年以上にわたる長期間続けられています。
図1 苗場山ブナ天然更新試験地の配置

 試験地は150m×l50mの方形10試験区からなり,図1に示したように上木の 伐採率を5段階に分けて,それぞれの伐採率につき2試験区ずつを配置して います。これらの試験区内に50m×50mの調査区を設定し,その調査区を10m× 50mの小区画に細分して,これも図に示したように,5つの異なった地床処理を 施しています。地床処理はl967年秋から1973年まで行われ,上木の伐採は1969 年の春に雪上で行われました。

 その後,・〜・試験区の母樹は1978年にすべて伐採し(母樹除去区), ・’〜・’試験区の母樹はそのままとして(母樹保護区)比較研究をして います。1992年と1993年には,試験開始25年後の評価を行うための調査を行い ,ブナ林施業技術確立のための貴重な資料を得ました。


   
☆多様な森林施業研究に向けて☆

 今までの針葉樹用材生産を目的とした画一的な施業技術から,森林の持つ 多様な機能を発揮させる施業技術への転換が求められています。天然林施業も その一つです。森林の代替わりを一般に「更新」と呼び,そのなかで自然に 発生した稚樹を利用した更新を「天然更新」といいます。ここでは,かつて 美林であった苗場山のブナ林における天然更新の継続調査結果の一部を紹介 します。

図2 天然林施業の確立が急務なブナ天然林 図3 良い条件下で旺盛に成長する幼樹群

☆ブナ稚樹の生存と成長に重要な光環境☆

 試験開始後約25年たった母樹除去区と母樹保残区では,後継樹となる稚樹の 本数に大きな違いがあります。稚樹高が30cm以上になっている稚樹の本数は, 母樹保残区のほうが母樹除去区より少ないのです。母樹保残区の中で稚樹本数 が比較的多かったのは,50%伐採区と70%伐採区です。つまり,伐採率の高い 区に生存本数が多いのです。母樹を多く残している区では,多数発生した稚樹 が上層からの光が少ないために生き延びられなかったのです(図4)。

図4 試験区別処理方法別の樹高30cm以上のブナ稚樹の本数

 母樹除去区では,当初に30%及び50%伐採した区に稚樹が多い状況になって います。これは母樹の多い所で大量に供給された種子から芽生えた稚樹が, 上木の除去とともに枯れることなく旺盛に成長したからだと考えられます。

 これらのことから,陰樹といわれるブナでもメバエが根付いた後は上層を 大きく開けるなどして,光条件を良くすることが更新を成功させる重要な ポイントだということが分かります。


図5 母樹除去区におけるサイズ別幼樹の死亡率

☆ブナ天然更新の大敵はササ☆

 伐採率を高くすると稚樹の成長は良好になりますが,ササの成長は稚樹より も旺盛になって,ブナ稚樹を覆い始めます(図6)。母樹除去区のl982年〜 l986年の結果をみると,林内が明るかった70%伐採区のほうが,どの大きさの 稚樹でも30%伐採区より死亡率が高くなっています(図5左)。70%伐採区の ほうがササの成長速度が早くて稚樹を被圧してしまったためです。母樹を除去 して8年以上たちササが十分に成長した後の1986年〜1992年の稚樹死亡率は, どちらの区も似たようなものになっています。両区のササの量の差がなくなっ てきたためでしょう。

 
☆伐採前後の地床処理が有効な手段☆

 上木の伐採前後に行った地床処理の方法別に稚樹の成立数をみると(図4) ,a(刈払い)区,b(刈払い十掻き起こし)区で本数が多くなっており,刈払 いという地床処理が天然更新補助作業として有効な方法だということが分かり ます。これに対して除草剤施用区はムラがあり,無処理区の成績は芳しくあり ません。

図6 疎開した林床を覆うササ 図7ブナ稚幼樹の成長生存調査


 
 ☆長期継続調査の重要性☆

 前回調査を行ったl986年までにはブナ稚樹はすっかり根付き,当初の各種の 処理の影響はその後の生存率に影響を与えないようになっていると考えられ ます。しかしながら最近l0年間の稚樹の生存率は,母樹除去区における0%区 で刈払い区だった所の27%以外は2〜7%,30%区が46〜70%,50%区が40〜 60%,70%区が30〜50%でした。母樹保残区においては,0%区で35%と17% の処理区がある他は4〜6%,30%区では8〜25%,50%区では35〜70%, 70%区では50〜76%でした。

 更新の初期過程を過ぎて,次代の森林を構成するメンバーの組成は安定期に 入ったと考えられましたが,実際には調査区分ごとの生存率のバラツキは かなり大きいものになっていたのです。従って,かつてのブナ林のような林が 再び出来上がる頃にはどんな森林が出現するのか,簡単には分かりません。 本当のことを知るためには,実際の変化を克明に継続的に調査記録して行く のが最良の方法です(図7)。

 この試験地が新しいブナ林に復元したと言えるようになるにはまだl00年 以上の期間が必要です。国内国外の研究者や技術者に知れわたっている「あの 苗場のブナ林試験地」で,営林局署の全面的な協力の下で今後とも調査を継続 して,わが国の代表的な天然林であるブナ林の育成に必要なデータの収集を 続けることににしています。

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