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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.3
1991.01.10

松くい虫撲滅作戦

−日本での経験が韓国で活かされる−

松くい虫の正体

 我が国のマツ林に大害を与えている[松くい虫]はマツノザイセンチュウを病原体,マツノマダラカミキリを媒介者とするアカマツ,クロマツ,リュウキュウマツの恐ろしい伝染病(マツ材線虫病)で,外国からの侵入病害と考えられています。最盛期の1979年には243万立方米ものマツが枯れ,今でも北海道と青森県を除く全国で毎年約100万立方米の被害が出ています。この病気はカミキリの飛翔のほかに被害マツ丸太の移動によって容易に伝播され,思いがけない遠隔地に発生することがよくあります。我が国以外にも,1982年に中国の南京市(日本からのクロマツ)と1985年に台湾の北部(日本からのりュウキュウマツとアカマツ)で激しい被害が確認され,その後,被害発生地域が拡大しています。

 

韓国のマツが危ない

 日本と同種のアカマツとクロマツの多い韓国へのこの伝染病の侵入が早くから危倶されていました。このおそれは不幸にして的中し,釜山市の金剛公園内のアカマツ・クロマツ林にマツ材線虫病が発生していることが韓国林業研究院の李樹病科長によって1988年11月に確認されました。最初にマツノザイセンチュウが検出された場所は動物園を中心とした約20haの50−100年生のマツ林で110本の集団枯死があり,その後の調査でその周辺部に散発的に発生している被害木の分布から防除対象面積は800haに及んでいることが分かりました。

 釜山市の山林面積の70%(12,600ha)はアカマツ・クロマツ林です。韓国全体にとってもこの2種のマツは我が国よりも重要な地位を占めています。初期段階で強力な対策をとらないと,日本と同様の惨状になりかねません。

マツ材線虫病によって全滅したアカマツ林

マツ材線虫病によって全滅したアカマツ林

茨城県つくば市

 

根絶作戦

 マツ材線虫病の被害と研究の先輩格である我が国に韓国の林業研究院を通じて早速相談があり,被害の根絶を期する水際作戦の計画作りが始りました。林業研究院と釜山市の担当官が森林総合研究所に派遣され熱心な意見交換が行なわれ,また,森林生物部の遠田暢男主任研究官が韓国林学会の緊急招請で現地調査・技術協力をしました。そして次のような計画が策定されました。

1. 地域住民へのマツ材線虫病の仕組みと防除の重要性の周知徹底

2. 衰弱木・被害木探索の徹底とマツノザイセンチュウ検出の実施

3. 被害木の伐倒駆除と未汚染地域への移動禁止の徹底(枝条の焼却,幹のチップ化の早期実施)

4. 被害発生地とその周辺マツ林への予防薬剤散布の徹底(航空散布は4回,住宅地周辺は地上散布)

マツノマダラカミキリ成虫

その成果

 この計面は韓国山林庁,林業研究院,釜山市の密接な連携のもとに1989年から徹底して実施されました。1990年11月に韓国を再度訪れた遠田主任研究官が持帰った情報によると,この2年間ですばらしい成果が挙っているようです。1989年の防除実施以前に800haのマツ林内に1,651本もあったマツノザイセンチュウ検出木が1年間で344本に減りました。さらに,1990年の防除を経て,この年の10月末までのセンチュウ検出木の発生はわずかに31本に止まっているそうです。しかも,媒介者であるマツノマダラカミキリの寄生はほとんどなくなり,実験材料としてのカミキリの確保すら困難であったとのことです。この調子でいけば,目的とする釜山市のマツ林への侵入病害の根絶はもはや目前の状態にまで来ているといえましよう。しかし,油断は禁物です。思わぬ所に飛火しているかも知れません。また、今後,再度の侵入がいつ,どこに起きるかも知れません。強力な侵入森林病虫害の防除は,拡大してからでは,非常に困難になることは我が国のマツ材線虫病以外にも世界で多くの事例があります。厳重な警戒体制をとり,侵入を初期段階で発見して徹底した対策で撲滅することが大切です。

マツノザイセンチュウ

我が国では

 この病気の我が国への侵入は今世紀初頭と思われます。自然生態系の中では異様な現象である[松くい虫]は正体不明のまま数十年が経過し,それが森林総合研究所の研究者によって解明された約20年前にはすでに西日本全体に蔓延しており,初期消火のできる時期はとうに過ぎていました。被害総量は確実に減少しつつも,ほぼ全国的に広まってしまった現状に鑑み,この病気を我が国のマツ林生態系にいかにして馴染ませるかを目的にして,各種の天敵や生理活性物質の利用,マツ林の抵抗力の増強,シミュレーション・モデルによる予測と防除体系の合理化等の研究に励んでおります。

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