ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.7
1991.03.11

野ネズミの“牧場”

−最近の野ネズミ個体群の研究から−

 森や草原に大きな囲い地を作り,その中で野ネズミを放し飼いにする−野ネズミを牧場のように1頭1頭きめ細かく管理する研究が世界各地で盛んに行われるようになってきました。なぜ“牧場”なのか? それは囲い地を使うと,野ネズミの密度やオス・メスの比率などを思うままに操作できるからです。例えば,囲い地を2つ用意し,一方には親戚どうし,他方には「他人」ばかりの野ネズミを入れ,ネズミの数がどのように変化するのかを観察することができます。実際,このような実験によって,まわりが他人ばかりの環境だと強いストレスのために繁殖力などが弱くなり,個体数が増えない,という仮説の検証が行われています。

 

木をかじる野ネズミ

 さて,北海道の野ネズミではエゾヤチネズミが有名です(写真1)。北極圏にすむタビネズミ(レミング)のように数年に一度ものすごく数を増やして,野山を走り回り,造林地の木を食い荒らすからです。その被害は深刻で,一年間に食い荒らされる木は平均して数十万本,防除には毎年6億円以上が使われています。北海道では昭和30年ごろから大規模な造林が盛んになりましたが,最近は小さな造林地が増えています。つまり,天然林の中に造林地が点在するようになったわけです。こうなると造林地の中にいるエゾヤチネズミを退治しても,周辺にいたネズミがすぐ造林地に入ってくるので,防除効果が長続きしません。

写真1 エゾヤチネズミ

写真1. エゾヤチネズミ。森や草原にすむ,体長12〜13センチの野ネズミ。

 

なぜ,ネズミがすぐに入ってきてしまうのでしょうか?

 ネズミの生息環境が変わったことも大きな原因ですが,防除する面積が小さくなると単位面積当たりの周辺距離が長くなるので,ネズミが侵入しやすくなるとも考えられます。例えば,500メートル四方の造林地を防除したとします。面積は25ヘクタールですから,ネズミが侵入するときに使える周辺距離は,1ヘクタール当たり80メートルになります。では,100メートル四方の小さな造林地の場合はどうでしょう。1ヘクタール当たりの周辺距離は400メートルになります。ネズミが使える「ドア」が5倍も大きくなるのです。

 

野外実験

 ネズミの移動行動と「ドア」の大きさの関係を調べるとき,防除面積と「ドア」の大きさを実験的に操作できると好都合です。それには,さきに紹介した囲い地が威力を発根します。

 北海道支所の実験林に1989年,大規模な野外実験施設が完成しました。シラカバ林を鉄板で仕切った3ヘクタールの囲い地です(写真2)。実験施設内では,エゾヤチネズミに1頭1頭番号を付け,野生に近い状態で管理しています。実験施設内にいるネズミの一部を防除に見立てて取り除き,その後の侵入経過を観察しました。ネズミを取り除くとき,取り除く場所を図1のように工夫しました。中央部を取り除いたときネズミは4方向から侵入できますが,取り除く場所を囲い地の隅にするとネズミは2方向からしか侵入できません。取り除く面積を同じにすれば「ドア」の大きさと移動行動の関係が分かります。

写真2 北海道支所の野ネズミ個体群野外実験施設

写真2. 北海道支所の野ネズミ個体群野外実験施設

図1 野外実験施設と実験計画の概要

図1. 野外実験施設と実験計画の概要。

点はワナの設置場所。影部分はチシマザサ,そのほかはクマイザサが優占する地域。破線は旧歩道。

 

「ドア」の大きさと移動行動

 取り除く場所を中央にするとエゾヤチネズミはすぐに侵入を始め,5日後には取り除いたネズミとだいたい同じ数のネズミが侵入してきました。一方,隅の場合,侵入してきたネズミの数は少し少なく,回復率(侵入してきたネズミの数/取り除いたネズミの数)と「ドア」の大きさ(単位面積当たりの周辺距離)には関連がありそうです(図2)。ただ,その関連はそれほど強いものではありません。例数は十分でありませんが,1に近いほど強い関連を表わす図2のrの値がそれほど高くないからです。ネズミの移動行動には「ドア」の大きさ以外の要因も作用しているようです。その分析は今後の課題ですが,オスが多いほど,また,幼体が多いほどよく移動する傾向が観察されています。

図2 単位面積当たりの周辺距離と回復率との関連

図2. 単位面積(100m2)当たりの周辺距離と回復率との関連。

周辺距離が長くなると,回復率が高くなる傾向が見られる。○は除去面積が0.3ha,▲は0.56haの場合。両変数は対数に変換しました。

 

 このように,囲い地は野外の実験にとても役立ちます。今後は,移動行動ばかりでなく,個体数がなぜ変動するかなどのテーマにも取り組みますので,研究の進展にご期待ください。

 

注:北海道支所の野ネズミ個体群野外実験施設の建設にあたっては林野庁技術開発課題の援助を受けました。

企画・製作 北海道支所 お問い合わせは
森林総合研究所企画調整部研究情報科へ
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720

目次一覧へ