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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.8
1991.03.27

熱帯林の消失と焼畑との関係

その社会・経済的アプローチ

熱帯林減少の要因は何か?

 熱帯林が減少する要因としてよくあげられるのは,人口増加,焼畑農業,商業的木材伐採です。しかし,熱帯林減少の背景となる種々の要因と森林の減少面積との複雑な関係を解きほぐすべく重回帰分析(一人当たりの値で計算)を行いますと,私たちが常識的に把握している内容とは必ずしも一致しない結果となりました。熱帯林減少と大きく関係する要因と,ほとんど関係のない要因は次のように区別できました。人口増加は直接的な要因ではなく,焼畑農業の相対的重要性が認められます。もちろん,熱帯林に関する信頼度の高いデータはまだありませんし,地域によって重要な要因は異なる,という点は否定できませんが,ある程度の目安になるのではないでしょうか。

 

熱帯林の減少と相関の強い要因

1.国内総生産額

2.休閑林(焼畑跡地)面積

3.薪炭材生産量

4.商業用材生産量

 

熱帯林の減少と相関のほとんどない要因

・人口増加

・農業人口

・耕地面積の増加

・牧場面積

・耕地面積

・森林面積

 

熱帯林の減少と焼畑のタイプとは関係あるか?

 熱帯林消失とのかかわりで焼畑をとらえる場合,少々注意が必要です。一口に焼畑といっても,生態系と調和している伝統的焼畑から,地力収奪的な非伝統的焼畑まで,そのタイプはさまざまだからです。熱帯林消失に直接結びつくのは非伝統的焼畑だと考えられます。このうち大部分は農村部から移住してきた土地なし農民が行っていますが,一部はもともと伝統的焼畑を行っていた部族も実施しています。また,中間的な準伝統的焼畑も森林への圧力を強めつつあります。

 井上真研究員は1987年4月から約3年間,国際協力事業団(JICA)専門家としてインドネシア共和国東カリマンタン州に滞在し,このような仮説を検証するために先住民などの集落に滞在して調査を行いました。

インドネシア共和国

なぜ非伝統的焼畑民が生み出されるか?

なぜ非伝統的焼畑民が生み出されるか?

 これに関しては,農業経済学の研究成果がたくさんあります。かいつまんで説明しますと,熱帯の農村社会には工業化のもたらす発展的メカニズムと,人口増加のもたらす後退的メカニズムが存在します。後者は,伝統的社会の崩壊と軌を一にして進行し,その結果,農村で生活できなくなった人々が移住を始めるわけです。都市部へ移住した人々はスラム街を形成しますが,新たな耕地を求めて森林地帯へ侵入した人々は非伝統的焼畑を営んで森林消失に一役かうことになります。東カリマンタンでは,スラウェシ島から移住してきて儲るコショウ栽培(写真右)のために森林を不毛の地と変えている部族がまさにこれに当てはまります。

 

伝統的焼畑はどのようにして変容するのか?

 伝統的焼畑の変容過程,つまり「伝統的焼畑→準伝統的焼畑→非伝統的焼畑」の過程を直接とりあつかった研究は,これまで文化人類学や人文地理学の分野でもありませんでした。井上研究員は,東カリマンタン州の奥地から下流域に分布するクニャー(またはケニァ)族の集落を調査することによってこの課題にいどみました。その結果,集落が市場経済に統合されるにつれて労働組織や相互扶助制度といった社会構造や生活様式が変化し,この一連の経済・社会的変容に呼応するように焼畑システムの生態的安定度は低下する,という事実を具体例で示すことができたのです。この具体例を利用して,焼畑システムの変容理論が提示されました。

 

社会科学的な研究も重要です!

 熱帯林問題への研究上のアプローチは大きく2つあります。それは,自然科学的アプローチと社会科学的アプローチです。上の例でいえば,伝統的焼畑農業やコショウ栽培による地力低下などを特定するのはまさに自然科学的研究ですが,ここで紹介した社会科学的研究なしには問題の解決は不可能なのです。

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