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森林総合研究所
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第103号
平成14年5月31日発行
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阿蘇地域における2001年6月の斜面災害(速報) 

 2001年6月,阿蘇地域は激しい豪雨に見舞われ,土砂災害が発生しました。私たちは熊本森林管理署と協力し,災害緊急調査を行ったので,土石流の発生原因である降雨を中心に被害の概況を紹介します。

豪雨の出現状況

 2001年6月28日〜29日にかけて停滞した前線活動によって熊本県と鹿児島県は大雨に見舞われました。試験流域において観測された6月29日の日雨量は237 mmと記録に残るほどのものではありませんでした。しかし,その日の雨は午前1時〜4時頃に集中して降ったのです。降雨の分布をみると,阿蘇カルデラの北西部と中東部(根子岳の北斜面付近)で多かったことが分かります(図1)。特に午前3時〜4時の時間雨量は97.5 mmで,この地域の観測史上最大値となりました。

図1 降雨量の分布

図1. 2001年6月29日午前1時〜4時における降雨量の分布

(気象庁・熊本県土木部・森林総合研究所九州支所山地防災研究グループの観測データによる) 

斜面崩壊と土石流の発生実態

 短時間に集中した豪雨によって,斜面では多数の崩壊が発生しました。その斜面崩壊は,阿蘇の代表的景観である草地を中心に起こりました(写真1)が,崩壊した土層の厚さは数10 cm程度と薄いものでした。一方,森林斜面では厚さ数mにも達する土層が崩壊して,多量の流木が発生する例も見られました(写真2)。これらの斜面崩壊による土砂は,そのまま一気に土石流となって渓流を流れ下りました。土石流は流下の際に渓流沿いの斜面を侵食し,直径数mに達する岩石も運搬しました(写真3)。土石流の恐ろしさがよく分かると思います。

写真1 草地における斜面崩壊
写真2 林地斜面における崩壊
写真1. 草地における斜面崩壊
(泉川第2支流民有林直轄治山事業施工地)
写真2. 林地斜面における崩壊
(黒川第4支流民有林直轄治山事業施工地)
写真3 治山ダムに堆積した巨礫
写真4 治山ダムによって捕捉された大量の流木
写真3. 治山ダムに堆積した巨礫
(黒川第4支流)
写真4. 治山ダムによって捕捉された大量の流木
(黒川第4支流)
 

降雨と土石流発生の観測記録

 私たちの研究グループでは以前から試験流域を設置して,降雨・水流出・土砂流出に関する観測を行っていました。これによって,今回発生した土石流の貴重なデータを得ることができました。降雨のピーク(午前3時30分〜40分;25.5 mm/10分)とほぼ同時に水位約1.5 mを記録し,水位センサーが流出してしまいました(図2)。センサーの破壊は土石流の通過を意味しているので,降雨のピーク時に流域の斜面で斜面崩壊が発生して,崩壊土砂は一気に土石流として流下したものと考えられます。

図2 試験流域における災害発生時の降雨流出状況 

図2. 試験流域(黒川第1支流第1支渓)における

災害発生時の降雨流出状況(2001年6月28日〜29日)

治山施設の効果

 今回の土砂災害がニュースとして報道されたのはカルデラ北西部の地域だけでした。その地域では民家が土石流に押し流されるなどの被害が発生したためです。それに対し,私たちが調査・観測をしていたカルデラ中東部では,被害について全く報道されませんでした。それは,1990年の災害以来,熊本森林管理署や熊本県阿蘇地域振興局によって治山施設が計画的に整備されてきたことによります。斜面崩壊によって多量の流木が発生した流域でも,それらの全てが治山ダムによって捕捉された例もみられました(写真4)。土石流によって運搬された土砂については,流下途中にある治山・砂防ダムによって大部分が捕捉されて,住民の居住地域までほとんど達しなかったのです。

 

 2001年6月に阿蘇地域で発生した豪雨災害は,治山施設によって被害が軽減されたことが緊急実態調査によって明らかとなりました。私たちは山地災害の恐ろしさを知るとともに,治山施設の重要性を改めて認識する必要があると思います。今後は現地調査だけでなく,空中写真や地理情報システムなどを活用して,災害発生の詳しいメカニズム解明をさらに進めてゆくことにしています。

 

 最後に,試験流域の設置や今回の緊急調査を実施するに当たっては,熊本森林管理署に多大なるご協力をいただきました。また,熊本県土木部砂防課において公開されている雨量データは,災害の実態を把握する上で大変有益でした。心からお礼申し上げます。

<実行課題> エウ4b

山地災害多発地域における水土流出機構の解明

宮縁 育夫・大丸 裕武・小川 泰浩・清水 貴範

(九州支所山地防災研究グループ)

研究の“森”から No.103 平成14年5月31日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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