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森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第104号
平成14年6月30日発行
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マツタケの進化の手がかりを捉えた


 マツタケが属するキシメジ科キシメジ属のきのこの多くは,宿主の樹木と共生して菌根を作ります(写真1)。キシメジ属は針葉樹から広葉樹まで宿主域が広く,その進化・分化の過程を解明することは,きのこと木の共生様式についての重要な情報を得ることになります。一方,菌根きのこの機能開発を図るために,これらの菌類の形質転換技術の確立が急がれています。私たちは,きのこでは初めてレトロエレメントと呼ばれるレトロウイルスによく似た遺伝子を発見しました。レトロウイルスとは,一般的論として特定の真核生物の細胞に特異的に感染し,その後この真核生物の染色体の一部として同化する特徴を持つウイルスです(図1参照)。

写真1 マツタケ子実体

菌根の写真

写真1. マツタケ子実体と,マツタケとアカマツとの間で形成された菌根と呼ばれる共生体

菌根の写真:上段2パネル=アカマツ毛細根にできたマツタケ菌根の外観 下段2パネル=菌根の切片,アカマツの細胞間隙にマツタケ菌糸が入り込んでいる様子(信州大学農学部山田明義助教授による観察)

図1 レトロウィルスの複製様式に基づいたレトロエレメントの生活環

図1. レトロウイルスの複製様式に基づいたレトロエレメントの生活環

 

●レトロエレメントとは?

 レトロエレメントはレトロウイルスと同様に二つの生活環を持つと考えられています(図1)。

(1)通常は宿主細胞の染色体に寄生し,染色体の一部として増殖します。

(2)環境ストレスを受けることにより,染色体とは独立した独自の複製をします。

   複製したレトロエレメントは新たな染色体部位に組み込む特性を持ちます。

 

●2種類のレトロエレメントをキシメジ属で発見!

 私たちは,哺乳類に感染するレトロウイルスに構造がよく似たmarY1と名付けたレトロエレメントと,それとは全く構造が異なるmarY2Nと名付けた非レトロウイルス型レトロエレメントをマツタケなどのキシメジ属きのこで発見しました(表1)。

表1. 本研究でレトロエレメントをクローニングできたキシメジ属きのこ

表1 本研究所でレトロエレメントをクローニングできたキシメジ属きのこ

●2種類のレトロエレメントの違いは?

 これらのレトロエレメントについて系統解析を行いました(図2)。marY1型は,きのこと樹木との共生様式とは相関が無い系統関係を示したことから,このレトロエレメントの分化には,きのこの進化とは独立した「伝搬」が関与したと考えられました(図1参照)。marY2N型は,共生様式と強い相関性を持つ系統樹を示したことから,このレトロエレメントの分化には,きのこの進化に付随した「遺伝」が関与したと考察されました。

図2 marY1型とmarY2N型レトロエレメントの系統樹

図2. marY1型とmarY2N型レトロエレメントの系統樹

レトロエレメントが由来するきのこは略号で表記(表1参照)

コントロールに用いたその他のレトロエレメントが由来する菌類は以下の通り:Aa=ナシ黒斑病菌由来,Ca=キャンディダ菌,Cg=サトウキビの病原菌,Cf=トマト青カビ病菌,Fo=フザリウム菌,Mg=イネいもち病菌,Nc=アカパンカビ,Sc=出芽酵母

 

●レトロエレメントは何に利用できるの?

 2種類のレトロエレメントには,それぞれの利用性が見いだせました。

(1)marY1型は伝搬する機能を持つと考えられ,これを使った新たなきのこの形質転換系の開発が現在行われています。

(2)marY2N型は染色体に同化した遺伝子と考えられ,きのこの進化を知る上でのマーカーとして利用できると考えられます。例えば,図2を基にきのこと木の共進化を推察してみると,キシメジ属は広葉樹共生から広・針葉樹共生を経て針葉樹共生へと移行していったことが推測されます。一方,この系統樹でミネシメジとカキシメジがマツタケモドキの後に位置づけられたのは興味深いところです(表1参照)。つまり,キシメジ属の進化は広葉樹から針葉樹への一方通行的な共進化ではなく,非常に複雑なのではないかと推測されます。

<実行課題>コウ1b 
きのこ類の形質転換に必要なベクター系及び遺伝子導入技術の開発

村田  仁 宮崎 安将 馬場崎勝彦(きのこ微生物研究領域)

共同研究者:山田 明義(信州大学農学部応用生命科学科助教授)

研究の“森”から No.104 平成14年6月30日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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