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森林総合研究所
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第108号
平成14年10月31日発行
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木の香りでダニを防除する

チリダニとアレルギー性疾患

 家の中に生息するヤケヒョウヒダニ(写真1)などのチリダニ類,並びに,それらのフン(写真2)や死骸は,アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患を引き起こすことが知られています。ダニが原因となるアレルギー性疾患を防ぐためには,家の中のダニ数を減少させ,ダニと接触する機会を減らすことが重要です。しかし,化学薬剤を用いた防除は,人に対して悪影響が懸念されます。そこで,天然物である木材の成分を利用したダニ防除に注目が集まっています。

 写真1 ヤケヒョウヒダニのメス

写真1. ヤケヒョウヒダニのメス(約400μm)

 写真2 ヤケヒョウヒダニのフン

写真2. ヤケヒョウヒダニのフン(矢印で示す。約30μm)

 

木材の香り物質の効果

 木材には数パーセントの精油が含まれており,これらの物質が木材に樹種固有の香りを与えています。この木材の香り物質にダニの動きを抑える働きがあることが最近の研究で明らかになってきました。ここでは,木材の香り物質がダニと接触する場合と接触しない場合の行動抑制効果について調べた結果を紹介します。

 

ヒバ材精油を用いたダニの行動抑制

 ヒバ材のノコ屑を用いて,木材の香り物質がヤケヒョウヒダニの行動をどの程度抑制するのか調べました。まず,本来のヒバ材と同等の精油含有量2.0%のノコ屑とその8分の1の精油含有量0.25%のノコ屑をつくりました。それらに飼料を加えた混合物の中でダニを飼育し,その行動と繁殖について観察しました。精油を含まないノコ屑を用いて同様の実験(対照)を行い,それらの結果を比較しました。図1に示すように,精油含有量2.0%のノコ屑中では,2日後には動いているダニは見られませんでした。また,0.25%のノコ屑中においても,25日後には,動いているダニは7%にまで減少しました。以上の結果から,ヒバ材の香り物質にはダニの動きを強く抑える効果があり,結果としてダニの数が減少することが示されました。

図1 ヒバ材精油がヤケヒョウヒダニの行動に及ぼす効果

図1. ヒバ材精油がヤケヒョウヒダニの行動に及ぼす効果

(★は対照と有意な差があることを示す)

 

木材チップを用いたダニの行動抑制

 針葉樹(ヒバ,ヒノキ)と広葉樹(ミズナラ,ケヤキ)のチップを用いて,それらから揮発する香り物質のヤケヒョウヒダニに対する行動抑制効果を調べました。まず,ダニをチップに直接触れることがないように通気穴のある容器に入れ,その容器をチップ上に置き,チップから揮発する香り物質のダニ行動抑制効果を調べました。木材チップを用いずに同様の実験(対照)を行い,それらの結果を比較しました。図2に示すように,ヒバ材,ヒノキ材の場合,72時間後には動いているダニは見られませんでした。精油を多く含み生物活性作用が強いといわれるヒバやヒノキなどの針葉樹材は強い行動抑制効果を持つことが分かりました。一方,ミズナラ材,ケヤキ材では行動抑制効果が見られず,樹種によって効果に差があることが分かりました。

図2 木材チップから発揮する香り物質がヤケヒョウヒダニの行動に及ぼす効果 

図2. 木材チップから揮発する香り物質がヤケヒョウヒダニの行動に及ぼす効果

(★は対照と有意な差があることを示す)

木材の香り物質によるダニの防除の可能性

 木材の香り物質を用いてアレルギー性疾患の原因となるダニの繁殖を抑制することは,化学薬剤を用いない有効な防除法の一つであると考えられます。また,強い行動抑制効果を持つヒバ材やヒノキ材の香り物質は人に快適感を与えることが,血圧,脈拍数,脳血流量などの生理的な評価においても示されています。木材の香り物質をダニ防除剤として利用するには,さらに行動抑制効果を長持ちさせる工夫や,生活環境中での効果の検証等が必要です。今後,実験データを蓄積することにより,その利用の可能性が高まっていくでしょう。

<実行課題> クイ1a 
木質建材から放散される揮発性有機化合物の
評価と快適性増進効果の解明
平松  靖(複合材料研究領域)
宮崎 良文(樹木化学研究領域)
研究の“森”から No108 平成14年10月31日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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