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独立行政法人
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第118号
平成15年11月30日発行
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“木”の成長をコントロールする

 近年,CO2排出による地球温暖化は大きな社会問題となっています。木は長期間にわたりCO2を固定することができるので,地球温暖化対策では森林面積や植林といったものを高く評価するようになってきました。しかし,一般に木の成長速度は遅く,植林できる面積にも限度があります。一方,都市の緑化事業の一環として,屋上緑化がクローズアップされていますが,建物の強度の問題から木があまり大きくなりすぎないようにしなければなりません。そこで,私たちは木の成長を自在にコントロールすることを目指した研究を行っています。

 

●ジベレリンって?

 ジベレリンは,植物の発芽,成長や花芽形成に重要な役割をもつ物質(植物ホルモン)です。通常,植物は自分自身で合成したジベレリンを使って成長しますが,何らかの理由でジベレリンの量が減ってしまった植物は著しく背丈が低くなります。また,ジベレリンを合成することのできる特定のカビが感染した植物では,背丈が伸びすぎてヒョロヒョロになってしまいます。ポプラに様々な濃度でジベレリンを与えてみると,写真のように与えた濃度に比例して背丈が大きくなります(写真1)。また,幹も太くなり,幹,葉のバイオマス生産量は増加します。もちろん,与えすぎると,かえってマイナス効果を示すことになりますが,実験に用いた濃度ではポプラに異常は見られませんでした。どうやら,木の細胞内のジベレリンの濃度を適切に変えることで,成長をコントロールすることができそうです。

写真1 ジベレリン処理を行ったポプラの成長の比較

写真1. ジベレリン処理を行ったポプラの成長の比較

●植物でのジベレリン合成

 だからといって,早く成長させたい木にジベレリンを散布したり,大きくしたくない木にジベレリンの効果を打ち消す薬剤を散布したのでは,お金がいくらあっても足りません。そこで,木が本来持つジベレリンの合成酵素や分解酵素を利用して成長をコントロールする方法を考えます。樹木も含め植物では,ジベレリンはゲラニルゲラニル二リン酸からent-カウレンという物質を経て合成されます(図1)。これらの酵素の遺伝子は様々な植物種から単離されています。私たちもこのうちのいくつかの酵素遺伝子をポプラなどの樹木から単離しています。これら遺伝子の発現量が調節できれば,樹木内部の活性型ジベレリンの量も調節できるはずです。しかし,それには遺伝子組換えの技術が必要となります。

図1 植物での主要なジベレリンの合成経路

図1. 植物での主要なジベレリン(GA)の合成経路

赤枠内は各反応を触媒する主要な酵素を示します。20-酸化酵素,3β-水酸化酵素,2β-水酸化酵素は,複数の反応を触媒します(同色の矢印は,同じ酵素による反応を示します)。

 

●遺伝子組換え“木”は可能なのか

 遺伝子組換えは,目的の形質だけを選択的に改変し,その他の形質には影響を及ぼさないという特徴があります。この技術を利用すれば,短期間で新しい形質を付与したり,他の生物種由来の遺伝形質を付与することが可能となります。私たちは,ポプラなど,いくつかの広葉樹種において遺伝子組換え体の作出に成功しています(写真2)。また,形態形成を支配する遺伝子を利用して,ポプラの形態をコントロールすることにも成功しています(写真3)。現在,この技術を用い,ジベレリン生合成にかかわる酵素遺伝子の発現量を調節し,木の成長を自在にコントロールする研究を進めています。

写真2 β-グルクロニダーゼ遺伝子を導入し、発現させたポプラの葉

写真2. 遺伝子組換え技術により,β-グルクロニダーゼ遺伝子を導入し,発現させたポプラの葉

形質転換体は,β-グルクロニダーゼの酵素活性があり,染色により青色を呈します。

 

写真3 形態制御遺伝子を利用して形態を改変したポプラ

写真3. 形態制御遺伝子を利用して形態を改変したポプラ

節間が短くなり,葉が極端に小さくなっています。

<実行課題> コイ1a 
形態形成等成長・分化の特性解明と関連遺伝子の単離及び機能解明

伊ヶ崎知弘  篠原 健司(生物工学研究領域)

研究の“森”から No109 平成14年11月30日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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