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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.11
1991.06.20

複層林の光と陰〜これまでの研究から〜


 今,話題の複層林とは,『人工更新による高木林で,その主林木の樹冠がほぼ同じ高さで単純な樹冠層を形成するものを一斉林,あるいは単層林』というのに対する用語です。すなわち,『樹冠層を2層(二段林),または3層以上(多段林)を持つもの,あるいは段階的な樹冠層を形づくらず各林木の樹冠が連続的であるもの(択伐林型)等を総称して複層林』といいます。このような複層林に誘導したり,維持するための森林の取り扱い方法を複層林施業といいます。

写真

○複層林造成のための林内更新は木がかなり大きくなって(50年以上)から行う方が,その後の管理が容易。

○林内更新のための良好な光条件を作るのには,本数のコントロールによる方法がよい。

 

○下木の健全な成長を促し高価値材の生産を図るためには,1年間に20p程度の樹高成長は欲しいところ。そのためには20%程度の林内の相対照度が必要。

図 愛媛県上浮穴地方スギ二段林育林技術体系図

図 愛媛県上浮穴地方スギ二段林育林技術体系図(部分)に手を加えたものです。施業の時期,基準などは省略してあります。

 

◎○複層林施業の『光』の面○◎

 複層林施業は,適切に行われれば,林地を有効に利用でき,生産量と蓄積量の増大が図れ,良質高価値材のコンスタントな生産が可能で,造林作業の省力化や労務配分の弾力化が図れ,安定的な経営が可能となります。

 さらに,諸被害に対する抵抗性が増大し,地力維持の効果,山崩れ防止機能の向上効果,理水機能の向上あるいは風致の維持等環境保全的にも有効な方法である,といわれています。

 

○複層林は,単層林に比べて昆虫相,鳥獣相も豊富になる。

○広葉樹が混生するようになれば,自然に害虫がコントロールされるのでは,という期待もある。

二段林造成のための間伐後の樹冠

二段林造成のための間伐後の樹冠

○複層林の初期化段階の林での調査では,植生の被覆量が多いと土壌や礫の移動量が少なく,孔隙バランスのよい土壌物理性を示していた。

○よく管理されている複層林は,単層林に比べて下層植生の量は極めて多く,粗腐植も明らかに多く堆積しており,地表侵食の防止効果の高いことを示唆。

林床の比較

林床の比較 (左)手入れ不足単層林の間伐直後 (右)上木80年生スギ〜下木23年生スギの複相林

△長期的に集約な施業を行う必要があり,労働力や伐出経費もかかり増しになる。

△林道・作業道の整備が必要である。

△伐採・搬出時に下層木が損傷を受ける危険性がある。

 

複層林施業の【陰】の部分

 

○●複層林施業は皆伐施業に比べて多くの利点を持っていますが問題点も多くあります。よく手入れされていれば,その利点が発揮されますが,管理が悪いと,かえって欠点が強く現れます。

○●この施業法は利点も多いが手抜きが効きません。

○●複層林経営を行っているベテランの林業家はいっています。「間伐もよくできない人は複層林などやらない方がよい」と。

○●複層林を何のために行うのか,まず,目標を定めることが大切です。

○●複層林の取扱い方針は,対象となる林に関係する自然的な条件や経営的な条件(環境保全的なウェイトが高いのか,経済性を追求するのか,上木を優先するか,それとも下木に重点を置くのか,基盤整備の状況とも関係しますがコスト的にどれだけ人手をかけられるかなどの経営方針とそのための条件)によって異なります。

 

●スギ林で上木を多く伐採し急激に照度を上げると不定枝が発生。

●複層林造成のための林内更新を,上木が若く,成長の盛んな時期に行うと,葉の量の増加が早いため林内の照度が急速に低下する。

下木の定着・成長に適する条件を維持するためには,再度上木を伐採しなければならない。

間伐後放置され葉の量が増加したヒノキ林

間伐後放置され葉の量が増加したヒノキ林

 

林内照度が5%程度になると,

●下木の主軸の先端が枯れ,幹の曲がりをおこす原因となる。

●根は鳥足状のものが多くなる。

●枯死してしまうものも多くなる。

 

●適切な施業が行われない場合には複層林の維持が困難となる。

 

●単層林より幾層にも葉の層が空間を占めて,林床への光量が不足し,林床植生を乏しくし,裸地化を招く危険性を持っている。

●地力維持効果が期待できなくなり,むしろ欠点が突出するような逆効果が現れる可能性がある。

 

●特にヒノキ林では,スギに比べ落葉・落枝による林床の被覆が期待できないため,裸地化の危険性が大きい。

 

●上木が害虫や害菌の巣だったら,上木を残しておくことは害虫や病菌も温存することになり,下木が被害を受ける可能性も高くなる。

ニホンキバチとその被害材

ニホンキバチとその被害材

愛媛県久万町にある二段林造成試験地

愛媛県久万町にある二段林造成試験地(民有林,展示林を兼ねている)

●上木の伐採搬出時に傷害を受けた下木は幹の曲がりが大きくなる。

上木の伐採によって発生した下木の損傷

上木の伐採によって発生した下木の損傷

●林内更新のための良好な光条件を作るのに,大きな枝の残っている上木の枝打ちにたよることは,材部に傷をつけ,変色を招くおそれがある(苦労のわりには良質材生産につながらない)。

(◎当初から良質材生産のために間伐と枝打ちとをセットで行っているところは別)

 

△良質材・高価値材としては,根元から上部まで同じような太さのものが望ましいが,雪による被害を受けやすくなる。

ヒノキ林の同一か所での林床の変化

ヒノキ林の同一か所での林床の変化

(左)12月初旬,(右)翌年8月初旬

○現在,複層林を扱っている林業家は,まず山を見よ,林ごとに取り扱いの最適条件を出すため試行錯誤を重ねなさい,ともいっています。研究側のつとめは,試行錯誤の無駄を少なくするように,研究から得られたデータや知見を提供することだと考えています。

○まだまだ複層林については,数字としてはっきりと示すことのできない点や,わからない点もいろいろあり,多くの課題について研究を継続しています。

○最近5年間の森林総合研究所四国支所年報及び四国情報を中心にまとめたものです。

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