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森林総合研究所
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第112号
平成15年3月31日発行
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森林景観の特徴を数値であらわす

―フラクタル次元を用いたスギ人工林景観の定量化の試み―

森林景観の特徴

 森林景観の特徴とは一体何でしょうか。そもそも森林景観に特徴などあるのでしょうか。専門家の立場からは「ある」といいたいところなのですが、では一体どこがどう特徴的なのか。と問われれば実際のところ困ってしまいます。写真を見せて、「ほらここが違うでしょ」と森林ごとの景観の特徴を比較して説明するのも一つの手段でしょう。森林景観を見比べながらそれぞれの特徴を見い出したり、理屈付けすることが必要となるため、あまり客観的な方法とはいえません。また、「景観に対する価値判断は主観的なものなのだから、景観の客観的な特徴の基準などあるわけがない」というような考え方もあるでしょう。

 これらの問題を解決するための一つの方法として、森林景観の特徴を数値で置き換える(これを定量化といいます)ことができればよいということに思いが及びます。ここでは、その思いを実現する一つの具体的な手法を紹介します。

 

地域ごとに特徴を持つ森林景観

 ここでは森林を外から眺めた時の景色を森林景観と定義します。森林景観はそれぞれの地域によって、その「見え方」に特徴があると指摘されています。つまり、それぞれの地域ごとに文化や風土が異なり、森林とのかかわり方も異なってきたため、「見え方」に違いがあるのも当然ともいえます。同様なことは林業がつくり出す森林景観についても当てはまります。林業が対象とする樹木の種類や取り扱い(施業)方法によってもその表情が大きく異なってくるからです(表1参照)。

表1. 両地域の施業の概要

日田地域

吉野地域

地域の所在

大分県日田市,日田郡

(1市2町4村)

奈良県川上村,東吉野村,黒滝村

(3村)

制度・特徴など

製材業,木工業と一体化

借地林制度,山守制度

施業の方針

効率のよい用材生産

林木の上部と下部が同じような太さ,節がなくまっすぐな大径材生産

造林方法

挿し木苗による造林

実生苗による造林

施業の特徴

やや低密度で植える(約3,000本/ha),短伐期

高密度で植える(約12,000本/ha),利用間伐を繰り返す,長伐期

景観の特徴

きめが粗く樹冠の形が揃っており,配列が規則的

きめが細かく樹冠の形,配列が不揃い

 ここでは、同じスギを扱いながら、森林管理の仕方や施業方法が大きく異なる日田林業地域(以降:日田地域)、吉野林業地域(以降:吉野地域)の森林景観について述べたいと思います(写真1、2参照)。なかでも森林景観を構成する樹冠の連続性に着目して、両地域の森林景観を「フラクタル」の考え方を用いて定量化し、比較してみます。

写真1 日田地域の森林景観
写真2 吉野地域の森林景観
写真1. 日田地域の森林景観

整然と並び引き締まった印象を示す

(撮影:辻華欧利)

写真2. 吉野地域の森林景観

雑然とし柔らかい印象を示す

(撮影:下村彰男)

フラクタルとは

 フラクタルとは1975年に Mandelbrot によって提案された考え方です。この考え方の登場により、それまで不可能だとされてきた、海岸線や山地など複雑で様々な形を持つ自然対象物を“次元”という概念で表すことにより定量化できるようになりました。平面の場合、フラクタルの次元は0〜2の間の値をとり、次元が高いほど形が複雑であるといえます。例えば、樹木は1.3〜1.8の間をとり、雲は1.35、川は1.4〜1.8になるといわれています(図1参照)。画像データを使ってフラクタル次元を算出するときは一般的に、ボックスカウンティング法という方法が多く用いられます。画像を一辺の大きさが r の正方形の小領域に分割し、r の大きさを変化させながら、対象となる図形の線分を含む小領域の個数を数えることによって求める方法です。ここではその方法を使って日田地域、吉野地域の代表的な森林景観の定量化を行ってみました。

図1 1.5次元の樹木の例
図2 フラクタル次元算出の例
図1. 1.5次元の樹木の例

(高安、1998より引用)

図2. フラクタル次元算出の例

(日田地域)

二つの森林景観の比較

 両地域の森林景観の特徴をよく表した写真の一部を取り出して、樹冠の連続性の形態を分析しました(図2参照)。その結果、吉野地域の森林景観のフラクタル次元は1.913、日田地域の森林景観のフラクタル次元は1.881となりました。先ほどのフラクタルの定義に基づけば、少なくとも今回用いた写真については、吉野地域の森林景観の方が日田地域よりも複雑であることがいえます。前掲の写真1と2を比べると、日田地域の森林景観が整然として見えると思いますが、数値の面からも客観的に裏付けられたわけです。さらに、日田地域の森林景観が硬質な印象を懐かせること、吉野地域の森林景観が柔らかい印象を懐かせることなどとも結びついているような気がします。こうした森林景観の違いは表1に示した森林への施業の差異を反映していると考えられます。高密度に植栽し、間伐などの手入れを繰り返しながらスギを育てていく吉野地域の方が複雑な森林景観を示していると考えられるのです。

 

おわりに

 このような森林景観の特徴を定量化する研究はまだ始まったばかりです。そのため、フラクタルを用いて正確に森林景観の特徴を理解していくためには、まだまだ多くの課題が残されています。例えば、どの程度の次元の差があれば景観の差があるのかといったことや、森林景観を成り立たせている他の条件が次元にいかなる影響を与えるのかなどがそれです。研究が進展すれば、いずれこうした課題も解決されることになるでしょう。その上で人間の景観に対する視的感覚との繋がりを明らかにすれば、真の意味で快適な森林景観を保全し、創出できる手法の一つとして広く用いられることになるでしょう。

<実行課題> エイ2b 

社会的背景にもとづく公益的機能評価及び
意志決定支援手法の開発

担当:高山 範理  杉村  乾(森林管理研究領域)
研究の“森”から No.112 平成15年3月31日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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