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森林総合研究所
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第114号
平成15年6月30日発行
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紙を白くするとトリハロメタンが出る!?


 ちょっとショッキングなタイトルですね。トリハロメタンは、水道水を塩素で殺菌すると発生することが知られています。主にクロロホルムのことで、発ガン性が疑われており現在その対策が求められています。しかし、クロロホルムは水道水の殺菌からだけではなく上質紙の原料であるクラフトパルプや回収した古紙の漂白からも発生しています。紙やパルプは木材を原料として製造されていますが、木材の成分の一つであるリグニンという物質が漂白剤に使われる次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムと反応してクロロホルムが発生するとされています。

写真1(左から) 未漂白クラフトパルプ 次亜塩素酸ナトリウム 漂白クラフトパルプ

 次亜塩素酸ナトリウムは台所やお風呂場のカビ取り剤,次亜塩素酸カルシウムはプールの殺菌用錠剤としてよく使われていますが、安くてしかも効果が高いのでパルプの漂白にも多量に使われています。では、その漂白過程からどれくらいのクロロホルムが出ているのでしょうか。平成11年度の日本製紙連合会の調査結果では年間1,118トンものクロロホルムが空気中へ放出されていたそうです。製紙工場ではクロロホルムが出ない漂白剤への転換を進めていますが、蛍光白色剤を含む古紙のようにどうしても次亜塩素酸ナトリウムを使わなければならない場合もあります。そのような場合に対応するための漂白技術を開発しました。

 クロロホルムは図1のような形をしています。炭素(C)に四本の手が出て、それに塩素(Cl)が合計3個と水素(H)が1個付いています。このうち、三個の塩素が高い毒性の元になっているので、この塩素を外してしまえば毒性はなくなります。

図1 クロロホルムの構造

図1. クロロホルムの構造

 ちょっと難しいですが、強いアルカリ性の水酸化ナトリウム水溶液(pH13)の中にクロロホルムを入れて高い温度(70℃以上)で加熱すると、図2のように水酸化ナトリウムの片割れである水酸化物イオン(OH-)が塩素(Cl)を蹴り出して入れ替わってしまいます。このように三個の塩素が次々と外れ,クロロホルムは最後にギ酸という無毒な物質に変化します。

図2 水酸化物イオンによりギ酸へ変換されるクロロホルム

図2. 水酸化物イオンによりギ酸へ変換されるクロロホルム

 このような反応をパルプや古紙の漂白中に行えば、たとえ次亜塩素酸ナトリウムを使用してもクロロホルムは空気中へ放出される前にギ酸へと変わってしまいます。そこでアルカリ性を強くして、温度も高くしてクラフトパルプを次亜塩素酸ナトリウムで漂白してみました。図3のように、アルカリ性が強く(pH12.7)かつ温度も高い(72℃)場合においてのみクロロホルムは検出されなくなりました。ただし、その漂白条件でも次亜塩素酸ナトリウムを加え過ぎると(添加量過多領域)、アルカリが不足してギ酸に変化しきれないクロロホルムが空気中へ放出されるので、注意が必要です。

 廃棄回収されたコピー紙などの上質紙(PPC紙)を再生する場合にも、次亜塩素酸ナトリウムが使用されます。上質紙は、すでに漂白されてリグニンが完全に除かれているので本来クロロホルムは出ないはずですが、どうも紙に含まれるいろいろな添加剤と次亜塩素酸ナトリウムが反応して少量のクロロホルムが発生するようです。この場合、トナーやインクを落ちやすくするため表1に示すようにかなり強いアルカリ性条件(pH11.5)で漂白が行われていますが、温度が少々低いようです。そこで、図3のクラフトパルプの場合を参考にしてアルカリをもう少し強く(pH12.7)し、かつ温度を72℃まで上げてみました。そうすると、やはりクロロホルムの発生を抑えることができました。

図3 クラフトパルプの漂白条件によるクロロホルム生成量の変化

図3. クラフトパルプの漂白条件によるクロロホルム生成量の変化

 

表1. 回収古紙(PPC紙)の次亜塩素酸ナトリウム漂白から発生するクロロホルム量

表1 回収古紙の次亜塩素酸ナトリウム漂白から発生するクロロホルム量

 現在、この技術を用いて製紙工場と共同でクロロホルムの発生を抑える取り組みを行っていますが、私たちの生活環境を守るためには、有害物質を出さない新しい漂白剤の開発も同時に進めていかねばなりません。

<実行課題>クア3a

 環境ホルモン関連物質生成機構の解明及び拡散防止技術の開発


眞柄 謙吾  杉元 倫子  細谷 修二(成分利用研究領域)
研究の“森”から No.114 平成15年6月30日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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