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森林総合研究所
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第116号
平成15年9月30日発行
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DNA鑑定を用いて優良な苗を作る


針葉樹採種園の大きな問題

 針葉樹の造林用苗の多くは採種園の種子から生産されています。採種園には成長または形質について優れた特徴を持っている個体(精英樹)が選抜され、母樹として植栽されています(図1)。つまり採種園ではこれらの個体間で交配が行われることで子供たちも優れた性質を受け継ぐことを期待しているわけです。しかし野外に設置されている採種園では、採種園外部からの花粉の混入が少なからず起こっている可能性があります。また採種園では挿し木によって増殖させた同じ精英樹クローンを複数植栽することが一般的です。そのため同じクローン同士の交配も自殖となり、一般の森林よりも自殖の割合が増える問題もあります。樹木は一般的に他殖を行うため、自殖によってできた種子は、発芽できなかったり成長が悪くなったりする近交弱勢が強く発現することが知られています。そのため多型性の高いDNAマーカーを開発し、採種園での外部からの花粉混入率及び自殖率の程度を調査しました。

図1 スギの採種園

図1. スギの採種園

 一般的には樹高が4m程度で、植栽間隔が3m程度になるように造成されています。

 

針葉樹の花粉はよく飛ぶ!

 5か所の採種園を使って外部花粉の混入率を調べました。その結果、混入率は35〜66%とどの採種園でも予想以上に高い値を示しました。これは採種園周辺の環境と関連があるのではないかと考え、半径10kmの土地利用の実態を調査しました。その結果、採種園周辺のスギ林面積と外部花粉混入率は密接な関係があることが分かりました(図2)。すなわち周囲にスギ林が多いほど混入率が高くなる傾向があります。また周囲にほとんどスギ林がない場合でも混入率は少なくとも30%以上もあり、スギ花粉が遠くまで飛ぶことがこの結果からも確認されました。

図2 採種園の周辺のスギ林の面積と外部花粉混入率との関係

図2. 採種園の周辺のスギ林の面積と外部花粉混入率との関係

 採種園から半径10kmのスギ林を赤で表示。採種園周囲のスギ林面積が増加すると

外部からの花粉の流入も増加することが分かります。

(この図は環境省自然環境局生物多様性センター発行の

自然環境情報GISの植生図からArcGISソフトウェアを用いて作成しました。)

 

自殖率は植栽クローン数と関係がある?

 自殖率は5か所の採種園で1.4〜4.4%と、これまでの報告と似た値を示しました。この自殖率は採種園に植栽されたクローン数が多くなると小さくなる傾向がありました。すなわちクローン数が25クローンと少ない採種園では、結果として同じクローンの植栽本数が多くなるため、これら同士の自殖が多くなります。一方、植栽クローンが40クローン以上になると、同じクローンの植栽本数も少なくなり自殖率も1〜2%程度に小さくなると考えられます。

 

繁殖力旺盛な父親と貧弱な父親

 生産される種子の母親としての貢献度は、母樹ごとの生産される種子量で測ることができます。一方、父親としての貢献度はDNAで調べないと明らかにできません。そこで母樹ごとに集めた種子の父親探しをDNA鑑定で行ったところ、種子の半数以上は少数の特定のクローンが父親であることが分かりました。(図3)。すなわち父親としては一部のクローンだけが貢献し、全く貢献しないクローンも多数あることが明らかになりました。

図3 各クローンの父親としての貢献度の違い

図3. 各クローンの父親としての貢献度の違い

クローンごとに貢献度に大きな違いがあります。

1クローンで全体の約20%程度貢献しているものもあれば、

全く貢献していないクローンもあります。

 

理想的な採種園とは

 外部花粉混入率はどの採種園でも高く、採種園の周囲にほとんどスギ林がなくても30%を超えていました。このため外部花粉混入率を減らすためには外部花粉を遮断できるビニールハウス等の室内採種園を作るべきでしょう。

 自殖率を減らすためには植栽クローン数を多くするとよいことが分かりました。可能ならば40クローン以上を使用した採種園にするとよいでしょう。

 父親の貢献度の大きなばらつきをなくすためには、開花時期が同じでしかも花粉生産量が同じ程度のクローンを植栽するとよいかもしれません。

<実行課題>コア1a

高密度遺伝子地図作成のための分子マーカーの開発と利用


津村 義彦  谷  尚樹(森林遺伝研究領域)

森口 喜成  平  英彰(新潟大学)
研究の“森”から No.116 平成15年9月30日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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