ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.12
1991.07.18

木材で牛を飼う


 

 「木質資源の飼料化技術」については,農林水産省の「バイオマス変換計画」などのプロジェクト研究で,表に示しめすような国公立試験研究機関,大学,民間企業等が長期間の飼養試験を実施して検討してきました。これらの飼養試験では,木質飼料摂取時における,(1)増体量(2)飼料採取量及び養分摂取量(3)溌育状態(4)行動(採食,反すう,起立時間など)(5)血液性状(6)屠体と枝肉(7)乳量,乳質等を綿密に調べました。これまでの結果,十分飼料として利用できることが実証され,普及のための「飼養マニュアル」も公表されました。また,木材資源の豊富な北海道や岩手県で,この木材飼料化工業の事業化のためのケーススタディも行われました。この技術によって,地域の未利用木材資源の有効利用を図り,林業・畜産業を活性化することが期待されています。

写真 木質資源の資料化技術

1.牛の飼料と粗飼料の意義

  家畜の飼料は栄養価によって,粗飼料,濃厚飼料,特殊飼料に大別されます。粗飼料は,粗繊維含量が多く,可消化養分の少ないワラ類,乾草類,生草類,サイレージ,根菜類です。濃厚飼料は,逆に,粗繊維含量が少なく,可消化養分の多いもので,穀類,油粕類,ヌカ類などです。特殊飼料は,ミネラル,ビタミン,抗生物質などです。

研究機関

試験内容

木質飼料の種類

国立畜産試験場

ホルスタイン種去勢雄子牛6頭:10か月肥育試験

ホルスタイン種去勢雄子牛8頭

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

蒸煮カラマツ(210℃,10min):TDN 26.7%

北海道農業試験場

泌乳牛14頭:3年間の給与試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

東北農業試験場

黒毛和種去勢雄牛12頭:472日間の肥育試験

日本短角種去勢雄牛12頭:15か月間の肥育試験

日本短角種去勢雄牛12頭:460日間の粗飼料多給型肥育試験

日本短角種去勢雄牛11頭:550日間の飼養試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

シラカンバ,コナラ及びブナの混合物を蒸煮(180℃,20min):TDN 50%

蒸煮広葉樹とグラスサイレージ:TDN 50%

九州農業試験場

褐毛和種肉用繁殖雌牛12頭:27か月飼養試験

褐毛和種離乳去勢子牛11頭:353日間の飼養試験

蒸煮コジイ(180℃,20min):TDN 45%

蒸煮モリシマアカシア(203℃,15min):TDN 50%

中国農業試験場

黒毛和種繁殖雌牛12頭:1年間の繁殖・哺育試験

黒毛和種去勢牛9頭:17か月の肥育試験

廃ほだ木(コナラ):TDN 39.3%

蒸煮廃ほだ木:TDN 44.5%

北海道風連町

ホルスタイン種去勢牛:3年間の肥育試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

岩手県畜産試験場

ホルスタイン種去勢牛6頭:340日間の肥育試験

日本短角種去勢牛12頭:309日間の肥育試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

蒸煮カラマツ(190℃,10min):TDN 16.2%

徳島県肉畜試験場

徳島県産乳用去勢牛14頭:264日間の飼養試験

蒸煮モウソウチク(184℃,20min):TDN 32%

宮崎県畜産試験場

トカラ在来山羊8頭:消化試験

1.5%過酢酸浸漬,蒸煮・爆砕スギ(225℃,5min):TDN 43.5%

岩手県立短大

黒毛和種去勢牛4頭:62週間の肥育試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

熊本県農業研究センター

黒毛和種肥育去勢牛8頭:374日間の肥育試験

黒毛和種肥育去勢牛8頭:406日間の肥育試験

蒸煮モウソウチク(194℃,20min):TDN 35%

蒸煮モウソウチク(194℃,20min):TDN 35%

岩手県バイオマス研究センター:小岩井農場酪農部

嗜好性試験

蒸煮樹皮付きミズナラ,コナラ,カラマツ(200℃,10min)

新生飼料(株)

ホルスタイン種32頭:72日間の肥育試験

蒸煮シラカンバ(180℃,20min):TDN 60%

 牛などの反すう家畜にとって粗飼料は必須のもので,それは唾液の分泌や反すうを活発にし,胃壁を刺激して,生理的によい効果を与える役割を持っています。現在のわが国の飼養標準では,粗繊維の必要量は,乳牛では13%以上,肥育牛では7〜8%以上とされています。わが国では,草地が狭いため,この粗飼料が慢性的に不足しています。従来用いられているイナワラ,牧草等は流通量や生産費に問題があり,農家経学の場では将来にわたって安価な入手は望めない状勢にあります。そこで,イネ科の牧草と同じような成分からなっている木材を牛の飼料として利用することが考えられ,研究が始められました。

 

2.木材の細胞壁構造

  ヤギはチリ紙を食べ,消化することができます。それは反すう胃内に多くの微生物が棲息しており,この微生物がチリ紙の主成分であるセルロースやヘミセルロースを消化する酵素を分泌するからです。しかし,木材を形成する細胞壁の中では,セルロースやヘミセルロースはリグニンによって緊密に包まれているため,未処理の木材は消化することができません。この細胞壁の構造を鉄筋コンクリート構造に例えると,セルロースが鉄筋,リグニンがコンクリート,ヘミセルロースは鉄筋とコンクリートの馴染みをよくする細い針金といえます(図1)。反すう胃内の微生物は,コンクリートに当たるリグニンを消化する酵素をもっていません。チリ紙は,大量の薬品とエネルギーを用いて木材からリグニンを取り除いたものですから,容易に反すう胃内で消化することができるのです。

図1 木材の細胞壁構造 

図1 木材の細胞壁構造

 

3.木材の飼料化技術−−蒸煮・爆砕−−

  低コストでリグニンを分解する方法が種々検討されましたが,その一つとして蒸煮・爆砕法があります。この方法は一切化学薬品を使わず,簡単で経済的です。図2にバッチ式の蒸煮・爆砕装置を示しました。圧力釜に木材チップを入れ,180〜230℃の水蒸気を導入して2〜20分間蒸煮します。その後,底部のプラグを急激に開いて水蒸気とともにチップを大気中に放出します。この処理によりチップは繊維化しますが,これを蒸煮・爆砕処理と呼んでいます。この処理によりリグニンが分解し,セルロース,ヘミセルロースは露出して,消化できるようになります。

図2 蒸煮爆砕装置

図2 蒸煮爆砕装置

 木材に含まれるリグニンの含量や化学構造は樹種によって異なるので,同じ条件で蒸煮しても消化性は樹種ごとに異なります。また,蒸煮温度が高くなるにつれて消化率は高くなりますが,ヘミセルロースがフルフラール等に分解したり,得られる繊維が小さくなりすぎたり,また,柔らかくなりすぎるのでむやみに蒸煮温度を高くすることができません。一般に,シラカンバ,ヤマナラシ,モリシマアカシアのようにリグニン含量が低い樹種で消化率は60%近くなり,牧草のアルファルファと同じ程度になります。クスノキ,シオジ,ケヤキなどはリグニン含量が針葉樹と同相度に高いので消化性は余り向ヒしません。

 消化性が低いということはエネルギー飼料としては価値が低いということを意味しますが,消化器官の生理機能を健全に保つという粗飼料としての効果は消化性の低い針葉樹材でももっています。樹皮付きの広葉樹やカラマツ材は消化率は低いのですが,粗飼料効果の高い飼料といえます。発育,増体に必要な栄養分は安く輸入できる濃厚飼料や特殊飼料を給与して満たします。イナワラなどの粗飼料は入手が困難なので,代替として木質飼料は貴重です。

 

4.蒸煮木質飼飼料の特性

  蒸煮木質飼料には次のようなよい特性があります。

○クリーンな飼料 原料に農薬汚染の心配がなく,製造過程でも一切化学薬品を使用しない。

○さわやかビーフの生産 木質飼料を給与すると,枝肉の皮下脂肪割合が低下し,赤肉が多くなる。

○家畜の健康を持続 繊維含量が高いため,粗飼料効果が高く,消化障害の発生防止,採食意欲の持続など良好な生理的効果を発揮する。

○貯蔵性が高い 180〜210℃の高温下で蒸煮し,直ちに包装するので,雑菌が人らず貯蔵性が高い。

○取り扱いが簡単 誰にでも安心して手軽に扱える。

○高品質のサイレージの調製が可能 酢酸を含有し,かなりの水分を吸収するので,含水率の高い牧草やトウモロコシのサイイレージを調製するときに,これを添加すると,高品質のサイレージが待られる。

企画・製作 研究管理官 お問い合わせは
森林総合研究所企画調整部研究情報科へ
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720

目次一覧へ