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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.13
1991.08.21

野生動物の年齢を調べる

個体群のモニタリングヘつなぐ

 個体数の増減のメカニズムやその原因を調べる研究はこれまで昆虫やノネズミ類でさかんに行われてきましたが,最近シカやカモシカ,クマなどの大型哺乳類でもこうした研究の重要性が認識されてきました。「野生動物の保護増殖をどのように図るか」や「野生動物による森林被害をどのように防除するか」という問題が多くの人の関心を呼ぶようになってきたからです。このために,動物の組織の一部を分析して個体群の動向をさぐる手がかりにしていくという試みが始まっています。

 

歯に刻まれた年輪

 シカやカモシカ,クマなどから歯を抜き,歯根部を縦に薄くスライスして顕微鏡にかけるとセメント質の部分に写真のような年輪(層)を見ることができます。これは,冬にセメント質の形成が停滞するため,染色液で濃く染め分けられることによるものです。

 この層の数から動物が何回越冬したかを数えて年齢を推定することができます。写真は10月に死亡したシカの第1切歯(一番大きな前歯)を用いた例です。歯の一番目の層は満1才の冬に形成されることが分かっており年輪の数は3ですので,順次たしていって満4才(4才4〜5か月)と査定できます。

 キツネやタヌキ,サルでも同じ方法で年齢を調べることができ,ノウサギでは歯が一生成長を続けるため下顎骨に形成される年輪を読み取ります。

ニホンジカの第1切歯のセメント質にみられる「年輪」 

ニホンジカの第1切歯のセメント質にみられる「年輪」

 

ワイルドライフマネジメントヘむけて

 たくさんの歯を集めて年齢を調べると図のような年齢ピラミッドを作ることができ,年齢構成の年次変化から個体群の変化を推し量ることができます。

 例えば,老齢個体の割合がどんどん減って寿命が短くなっている場合には個体群全体の死亡率が高くなってきていることを示しており,この原因が狩猟によるのであれば捕獲数を制限するなどの措置を講じる必要がでてきます。

 また,歯と同時に繁殖に関するデータが集められれば,年齢別の繁殖率も重要な指標になります。特に,初産年齢が高くなったり初産時の妊娠率や出産率が低下してきた時には,エサ不足の兆候と考えて生息環境を再度調べることが必要になってきます。

ニホンジカの年齢構成と齢別の妊娠率 

ニホンジカの年齢構成(左)と齢別の妊娠率(右)

 多数のサンプルをしかも継続して収集分析していくためには,野生動物に関係する機関・団体の参加が欠かせません。関西地域ではすでにいくつかの地域でこうしたモニタリング体制が組まれており,その成果が期待されています。


どうする!? 野生動物との共存


 関西地方では古くから都市化が進み,森林域と居住域が接近しています。このため,持続的に利用できる環境資源として野生鳥獣の保護・管理に対する要請が強くなって来ています。また,人工林化した自然度の低い森林を多く持つ本地域においては,生態系の保全をめざした多様な野生鳥獣群集を維持する機能の強化策も要望されています。一方,獣類による森林被害が深刻な問題となっており,防除技術の確立も急がれています。このように全国的に見ても,野生動物に対する要請の大きな関西地方において現在進行中の研究の一部と共存のための将来展望(グリーンフロント保全計画)について紹介します。

 

<グリーンフロントゾーンとは?>

 かつて,森林に接しながら生活を営むのは山村住民がほとんどでした。しかし,近年,国民の森林に対する期待が保健休養へと急速にシフトしつつあり,森林地帯への市街地の拡大,車社会の発展に伴う日常行動圏の拡張により,一般市民の森林への入り込みが頻繁に生じるようになってきました。そのため,森林域と居住域が複雑に接近してきて,森林を生息場所とする野生鳥獣がさまざまな形で住民と接触するようになってきています。このような山村と都市をつなぐ森林地帯,すなわち自然環境と人間を含めた生物社会の活動との緩衝作用を持つべき森林地帯をグリーンフロントゾーンといいます。

グリーンフロント環境保全計画 

これまでの成果とこれからの課題

 グリーンフロント保全計画にしたがって野生鳥獣との共存を考えていくためには,まずこれらの動物と生息環境とのかかわり合いを正しく理解することが大切です。このため現在,以下に示した流れに沿って研究を進め,さまざまな野生動物が生息できるグリーンフロントの管理技術確立を目指しています。

 

生息情報の収集とデータベース化

食性や土地・環境利用の調査

環境変化の成長・繁殖への影響調査

希少種の判定と保護増殖

動物を含めた自然度の回復

マイルドな防除法の開発

グリーンフロント管理技術の確立

企画・製作 関西支所 お問い合わせは
森林総合研究所企画調整部研究情報科へ
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