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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.14
1991.09.30

火山性地域の山地災害

1990.7.2阿蘇災害の実態と今後の研究方向


阿蘇地方における豪雨災害

 昨年梅雨末期の豪雨で,九州中北部は甚大な被害を受けました。とりわけ,7月2日に熊本県阿蘇地方に発生した大規模な土石流は,多数の死傷者,家屋の損壊をひきおこす激甚災害となりました。この災害に対して,九州支所も災害の緊急実態調査や林野庁等の災害調査に参面し,次のような知見を得ました。

 

1)高岳・根子岳北面

 この地域は,根子岳北面を流れる黒川の5つの支流が広い扇状地を形成しており,表層は数十cmから1m以上の黒ボクの土層で,その下は褐色火山灰層,そして,基盤が溶岩または火山砕屑物といった構造がこの地域での一般的特徴です。

 今回の災害で見られた崩壊の滑り面は,黒ボク層と褐色火山灰層との間にみられるような相対的な不連続面に生じており,これらの崩壊は上部植生の種類を問わず発生していました。また,崩壊深度は全体的に浅く,1m〜2mの浅層崩壊となっていましたが樹木の種類による根の効果に差はありませんでした。

高岳・根子岳北面の浅層崩壊 

高岳・根子岳北面の浅層崩壊

 

2)外輪山内壁

  外輪山内壁の崩壊は、上記の根子岳周辺の浅層崩壊とは異なり,比較的深い層での崩壊となっていました。これはカルデラ上部の厚い火砕流堆積層や火山灰堆積層に降った雨が外輪山内壁に集水し,局部的に高い間隙水圧を免じて崩壊したものと考えられます。

 このような崩壊は供給される水の最が多いため,崩上は流動して土石流になりやすいことが分かりました。

外輪山内壁の崩壊 

外輪山内壁の崩壊

外輪山内壁の土石流発生地

外輪山内壁の土石流発生地

 

今後の研究方向

 九州では桜島をはじめとして,阿蘇山,雲仙岳等の活発な火山活動により,災害上の多くの問題が生じています。

 現在,このような火山性地域における防災対策が早急に求められており,そのために基盤的情報の集積や雄礎的研究の推進が必要となっています。

 山地災害にかかわる火山活動の影響は降灰による場合が多く,各地で土石流発生の主要因の一つと考えられています。防災対策に重要な要素となる新生火山灰の物性の測定や堆積状況の調査をさらに進め,また,崩壊地における植生や土質特性等の調査から崩壊等の災害発生機構を解明する研究を推進する予定です。


照葉樹林の動態を解明する大面積・継続調査


貴重になった照葉樹林

 カシやシイなどの常緑広葉樹が混交する照葉樹林は,日本の代表的な森林の一つです。しかし,その分布域は古くから人間活動の影響を強く受けてきたため,天然の照葉樹林は少なくなり,常緑広葉樹資源の枯渇化が問題となっています。一方,天然林は水源確保,災害防止などの多様な役割も担っています。このように照葉樹林は私たちの生活上,重要かつ貴重な存在なのです。

 

なぜ大面積・継続調査なのか

 成熟した照葉樹林には多くの樹種が生育し,林冠木は直径が1m近くになり,その樹齢は数百年に達しています。そのため大面積かつ長期間の調査を行わないと,これら構成樹種の特性や森林全体の動態を把握することができません。そこで,宮崎県綾町の照葉樹林に4haの試験地(写真)を設けました。

写真 成熟した照葉樹林(試験地) 

 写真 成熟した照葉樹林(試験地) このような立派な照葉樹林は少なくなった

 

今までの調査から

 図1にはアカガシとタブノキの分布を示しています。網目になっているのが立体的に示した調査地で,その上に立木を配置しています。アカガシとタブノキは,生育している場所が重複して見えますが,詳しく見ると若干異なることが分かります。またアカガシの小さな木(幼木)は少なく,大きな木(成木)の近くに生育しているのに,タブノキでは幼木が成木から離れたところに生育しているのが分かります。これらも,大面積調査によって初めて明らかになったことです。

図1 調査地内でのアカガシとタブノキの分布 

 図1 調査地内でのアカガシとタブノキの分布

 

生物の相互作用に注目した研究

 これまでの研究は,植物対植物の関係や光・湿度との関連に注目していました。しかし,樹木が種子から成木に至るまでには,動物や菌類の作用,土壌の影響も無視できません。そこで,図1にみられる現象が生じる仕組みを知るために,私たちは,図2に示す項目を調査しています。種子については,鳥や風によって種子が運ばれる仕組みを解析します。実生・稚樹の生き残りについては,動物による採食や土壌の影響を調べます。さらにそれらが,成木が倒れた場合(ギャップ形成),どのように変化するかも調べています。

図2 森林の模式図と調査・研究項目 

図2 森林の模式図と調査・研究項目

虫メガネで覗いているところが現在調査している項目

 

照葉樹林とつき合うために

 森林の中では,植物・動物・菌類がお互いに干渉し,利用し合いながら生活しています。これらの相互作用が把握できれば,照葉樹林の動態が明らかになり,森林を育成,維持しながら,その恵を利用することができるはずです。

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