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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.15
1991.12.06

VA菌根の農・林業への有効利用


 日本の林業はVA菌根によって支えられている。少しいいすぎかも知れませんが,決してはったりではありません。あまり知られていないこの仲間,じつはスギやヒノキをはじめとする多くの樹木や草本類の根に感染し,共生します。林業に先んじて,近年農作物・果樹・園芸作物に有効利用する研究が盛んです。共生という営みを行うことでは,きのこをつくることで知られる外生菌根菌やマメ科で知られる根粒菌とともに著名な菌類でEndogone科に属する下等なカビです。単独で生きられない絶対共生菌で人工培養ができません。

 VA菌根菌は被子植物の起源と変わらないほど古く,植物とともに進化してきた菌類です。ですから極めて広範囲に分布し,水生植物やアブラナ科,アカザ科など,そして外生菌根性樹木の大半を除いた約80%の被子植物と共生しています。外生菌根菌は起源が新しいので分布も限られ,これらを異郷土へ導入する場合には菌も一緒に連れていかなければ成林しないことがあります。一方,麦やジャガイモ,キュウリなど多くの作物や園芸植物は,導入先でも共生できるVA菌根菌がいるため困ることはないようです。温暖な我が国ではいたるところVA菌根がみられ,新植地でもスギやヒノキに不都合はありません。ではなぜ最近VA菌根が注目されるようになったのでしょう。共生→菌根というイメージには,施肥節減,耐病性・耐乾性の向上などによる収穫物の品質改善や増収への期待まで含まれています。現代の集約的な農業に欠かせない微生物,VA菌根への期待は大いに高まっているようです。

 

VA菌根の形成

 根のまわりにあまり密度の高くない菌糸がまとわりつくようにくっついている,というのがVA菌根の外観です。外生菌根ではまといつく菌糸が冬物の衣のように分厚いことがありますが,VA菌根はいわば夏向きの体裁です。根に侵入するためまず吸着する場所を探し,侵入開始後ただちに皮層細胞間隙を走り,次に細胞内に侵入し樹枝状(Arbuscule)やとぐろ状に充満,そして数日後には崩壊し細胞質に同化します。一方細胞間隙やときには細胞内に菌糸先端部が嚢(のう)状(Vesicule)に膨らんでこの中にリン脂質やグリコーゲンを貯えます。

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VA菌根のはたらき

 菌体の形成や活動のエネルギー源は宿主に全面的に依存しますが,代わりに水やN・P・Kなどの養分供給を行います。なかでも注目されるのはリンの吸収です。宿主への貢献にはリグニン系物賢の蓄積を促したり,リン脂質の増加によって病原菌に対する抵抗性を高めたり,さらに耐乾性を高めたりするなどの働きがあります。またVA菌根菌単独の働きに加え,有機酸や無機酸生成を行うリン可溶菌や窒素を固定する根粒菌,それに生育向上に効果のある随伴菌などとの相乗作用が着目されています。

 

接種効果

 接種区は対照区に比べ地上部と地下部のバランスがとれ力強く生育します。VA菌根菌の増殖のための土壌改良にはさまざまな工夫がなされていますが,炭の多孔質,貧栄養状態はVA菌根菌にとって好ましい環境を作り出すようです。施肥量は多過ぎても少な過ぎても具合が悪いようで,若干の肥料のもとで最大の効果が得られるといったように,自然の養分環境や生物環境に対応するようにできているようです。

スギのポット栽培

スギのポット栽培:左からG.margarita 接種区,G.gregaria 接種区,Glomus 接種区,対照区

 

固定と増殖

 種によって胞子形成の様子が異なるようですが,その生態の多くがまだ謎に包まれています。たとえば,Glomusの胞子はある程度腐った植物遺体上などに小さくて塊状に形成され,その遺体ごと室内で1年間放置しても生存するほど乾燥に強いのですが,Gigasporaの胞子は大きくて土壌中で単一に形成され,乾燥に弱くそのままでは保存できません。胞子の保存は種によって異なった方法が必要であることが分かりました。今,固定技術の開発や低コスト化に目が向けられています。これらの胞子は土壌をふるいにかけ水洗したのち,実体顕微鏡下でピペットを用いて吸い取り回収します。その胞子をポット土壌で適当な植物のもとで増殖させますが,てっとり早い方法としては胞子がたくさんみられる土や根を目的の場所へすき込みます。

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Glomus sp.が植物枯死体上に胞子塊を形成
Glomus sp.がガラス壁面上に胞子塊を形成
粉炭中ではアルファルファの根密度が高まりG.margaritaの胞子形成を促進

 

VA菌根への取り組み

 過施肥・農薬の多用,そして休耕しない農地は疲れています。こんなところではVA菌根菌の出番はありません。リハビリを行ってからということになります。一方健全な土壌におけるVA菌根菌の取り扱いにも次のような問題があります。都合のよい菌を働かせるには有効な菌を固定・増殖させる必要がありますが,それには静菌作用(特定菌の増殖を抑える)に挑まなければなりません。そのため土壌環境,植物との親和性,他菌との相乗作用や競合作用による効果に着目する必要があります。今のところ,その利用は限られていますが,農地では作物だけでなく雑草も,そして林地における伐採跡地の草本や成林後のかん木もVA菌根をもつことを知るべきでしょう。根とともに生きる微生物の有効利用はいま注目の的です。

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