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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.16
1992.02.03

森の輪廻を追う


 森林は多様な機能を持っています。その中でも,環境を保ち,やすらぎの場をもたらし,いろいろな生物や遺伝子を養うといった側面が近年重視されています。また,こうした機能に優れるといわれる天然林や原生林と呼ばれるような森林が非常に少なくなり,その保全が問題となっています。従って,森林のもつ機能をできるだけ損なわない形で資源を利用したり,自然の森林を保存・管理していく方法を考える必要があります。しかし,このためには森林を構成する多種の樹木の生態や,各樹種の集団(個体群)がどのようなメカニズムで増減するのかといった基礎的な情報が必要ですが,まだ不足しているのが現状です。

 そこで,農林水産省「生態秩序計画」の一環として,北茨城市の小川学術参考保護林に調査地を設け,森林全体の動き(群集動態)や個々の樹種の生態(個体群生態),それらに関与する要因などを調べ始めました。特に,森林を構成する主要な樹種については,一本の母樹がいくつの種子をつけ,そのうちの何%が発芽し,生き残って再び母樹となるのはどれだけかという,樹木の一生を追いかけることにしました。つまり,樹木について人口のピラミッドを描いてみようというわけです。

 このため,6ヘクタールという大きな面積の調査地を設けました。調査地内の直径5cm以上の樹木はすべて登録され,どの場所にあるか記録されています。それより小さな樹木は,600個以上の方形区(2m四方)を配置して,その成長と生残を2年ごとに調べます。種子と発芽当年の実生については,約300個の種子トラップ(写真右)と,そのすぐ横に設けた方形区(1m四方)で,2〜4週間おきに回収,調査しています。

 樹木の生残や成長に関与する要因として,風倒(写真左)などの自然撹乱も重要です。林冠木が倒れると地表近くまで光が届くようになり,樹木の成長速度や生残率が高くなるのです。このような林冠ギャップの形成実態も継続的に調べています。

図 研究の流れ

写真1

写真2

各樹種の個体群生態

 1987年からの継続的な調査の結果,各樹種の個体群構造(サイズ分布,空間的分布パターン,開花・結実個体の割合など)が明らかになったほか,個体群動態(サイズごとの成長速度,死亡率)とその要因についても現在解析中です。種子と当年生の実生については,この5年間に豊作年のあった約15種類の樹木について,散布パターン,実生の発生率,死亡率とその原因などの定量的解析が可能なデータを得ることができました。コナラのように大きな種子(ドングリ)を持つ樹種では,種子の散布範囲は狭いものの実生の発生率や生残率が高く,逆にミズメのように翼のある小さな種子を大量につける樹木では,散布範囲は広くても実生の発生率や生残率は低くなっています(図)。

図 コナラ、イタヤカエデ、ミズメの種子散布と発芽年の秋までの実生の生残

図 コナラ,イタヤカエデ,ミズメの種子散布と発芽年の秋までの実生の生残

上:種子散布パターン。黒丸が母樹の位置,数字は1m2当たりの落下した健全種子数。

正方形の一辺が100m。                        

下:種子から発芽当年秋までの生き残りパターン                 

落下した健全種子数を100としたときの値で示してある。         

 

森林の群集構造と各樹種の生態的地位

 各樹種の個体群構造(直径のサイズ分布)は,その樹種の耐陰性(弱い光条件に耐える性質)を大まかに示すといわれています。小さなサイズほど個体数が多いL型分布では耐陰性が強く,ベル(つりがね)型では弱いとされています。このような個体群構造の分類と,林内での各樹種の分布の重なり合い(分布相関)のクラスタリングにより,各樹種のもつ性質の違い(群集内での生態的地位)が明らかになりました(表)。

 主要な生育環境が,沢すじ(A),斜面〜尾根すじ(B),あるいはどちらにも片寄らない(C)で区分され,林冠ギャップやさらに大きな撹乱など明るい環境を好むか,あるいは光の弱い条件でも耐えることができるかで細かく分類できます。このように,森林の中に存在する地形の起伏や林冠ギャップなどの微細な環境の違いに応じて,それぞれの樹種の生育する場所が異なっているのです。生態的地位のこうした細かな分化によって,森林群集の種構成の多様さが維持されているとも考えられています。

 森の輪廻の解明に必要なデータはほかにもたくさんあります。こうした研究の継続が重要と考えています。

表 主要構成樹種の生態的地位の分類

表 主要構成樹種の生態的地位の分類

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