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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.17
1992.05.20

DNAで森林及び林木の遺伝の仕組みを明らかにする


 DNA(デオキシリボ核酸)は遺伝子の本体であり,最近ではごく一般的な用語になっていますが,このDNAを調べることによって,林木についても個体や集団のレベルで遺伝特性や遺伝の仕組みを解明できるようになりました。

 森林も生物社会の一つですから,親(母樹)があって,その周りに子供ができ,家系をつくり,家系が集まって集団を構成している場合が多いようです。しかし,樹木は自分で移動できませんので,遺伝子の交換が周囲のもの同士に限られてしまいますと,近親交配が起こる頻度が高くなって,その集団は遺伝的に様々な悪い問題を抱えることになり,やがて生存そのものも危ぶまれることになります。現実に,絶滅の危機にひんしている種も少なくありません。こういった森林の遺伝的内容をDNAを利用して調べることができます。最近,“遺伝的多様性”が強調されていますが,森林遺伝資源の保全や森林を健全に管理していく上で,森林の遺伝の仕組みや集団の遺伝構造についてのDNAレベルの情報が非常に大事な基礎情報となります。

 また,DNAを利用して樹木の分子系統分類,スギの遺伝子地図作製などの研究も開始しています。

DNAで林木の身元調べ

 森の中の一本の幼樹はどの親から生まれたのだろうか。父親はどの木だろうか。母親も父親もハッキリしないのが普通です。最近,DNA解析技術が進み個体識別ができるようになりました。これはDNAが個体ごとに違うからです。ヒトでは親子鑑定や犯罪捜査にすでに利用されており,指紋と同じように個体ごとに違うことからDNAフィンガープリントと呼ばれています。また,PCR(DNA増幅)を用いてDNA鎖の小さな断片からでも遺伝的な変異を検出できるようになりました。図1.はDNAを増幅させる仕組みを示したものですが,同じプライマーで増幅されたDNA部分でも,個体によって塩基配列が異なるため,これを電気泳動にかけると,分子量の差によって異なったバンドが出現します。この多型現象を利用して個体識別を行うわけです。

 林木でもこれらの方法を用いて親子・兄弟・クローンの同定や集団の中における遺伝子の拡散,集団の遺伝変異の大きさを推定することができますから,森林遺伝学の研究や林木育種の有力な武器になります。

 これらの方法を,遺伝資源の保全,健全な森林の管理,林木育種に役立たせるための技術開発を進めています。

図1 PCR法を用いたDNAの増幅

図1. PCR法を用いたDNAの増幅

プライマー:DNAの合成反応においてDNA鎖がのびていく出発点として働くDNA鎖の小さな断片

スギの遺伝子地図作製に向けて

 特定の塩基配列を認識してDNAを切断する制限酵素を用いてDNAを切断し,それらのDNA断片を電気泳動によって大きさ順にわけて個体間のDNAの違いを検出する方法があります。DNA制限酵素断片長多型といわれる方法で,その頭文字をとってRFLPと呼んでいます。核DNAのRFLPはメンデルの法則に従って遺伝しますので,それぞれの連鎖関係から一つの地図を作製することができます。

 図2.は,ミドリスギ(m)と淡緑葉の遺伝子をヘテロにもつ個体(g)その両者の子供群からDNAを抽出し,制限酵素EcoRVで切断した後,電気泳動で分離し,RFLPを示すDNAプローブNo.50とサザンハイブリダイゼーション(相補性をもつDNA断片を検出する一方法)を行った結果,次世代にmとgのタイプが遺伝することを示したものです。

 現在,スギのRFLP連鎖地図を作製するための研究を開始したところであり,標識となるDNA断片の検索を行っています。最終的には,スギの基本染色体数n=11であることから,11の連鎖群として遺伝子地図にまとめることを目標にしています。また,RFLPを示すDNA標識と実用形質との関係が明らかとなれば,効率的な育種を進めることが可能になります。

図2 スギのRFLP分離
図2. スギのRFLP分離
m:ミドリスギ g:淡緑葉の遺伝子をヘテロにもつ個体 9〜29:子供群

 

葉緑体DNAで樹木の系統進化を探る

 DNAは細胞の核の中だけではなくミトコンドリアや葉緑体にもあります。葉緑体DNAは種内変異が少ないことから,系統進化を調べるのに有効な標識になります。方法は葉緑体DNAを制限酵素で切断し,電気泳動によって現れるバンドを比較するもので,種間(例えばアカマツとクロマツ),属間(例えばマツ属とモミ属),科問(例えばスギ科とマツ科)などの近縁度を数量的に表すことができます。

 現在,我が国の針葉樹・広葉樹について種間の関係を葉緑体DNAを用いて研究を進めています(図3.)。また,今話題の熱帯林についてもフタバガキ科樹木の分子系統分類を進めています。これまでに得られた結果では,従来多くの植物分類学者が行ってきた形態による分類を支持するものになっています。

図3 マツ属5種の葉緑体DNAをXhoIという制限酵素で切断後、電気泳動したもの
図3. マツ属5種の葉緑体DNAをXhoIという制限酵素で切断後,電気泳動したもの

(バンドの一致率で近縁な種かどうかをみる)

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