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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.19
1992.07.28

「木材」から「エンジニアリングウッド」へ


 木材には一本一本個性があります。この世の中に一つとして同じ木材はありません。木材の持つこの多様さは,造形や工芸の世界では非常に重視されます。つまり,性質が一様でない方が趣が深いわけです。ところが,建築用材のような工業的用途に木材を利用する場合,このような性質のバラツキは一転して大きな欠点になってしまいます。工業材料の評価は,平均値ではなく,その中に含まれる最も低質な材料によって決まってしまいます。このため,バラツキが大きい材料ほど全体としての評価は低くなってしまうのです。

 従来,木材製品は鉄鋼製品などよりも安全性・信頼性の低い材料であると見なされてきました。木材製品には強度性能のバラツキが大きい,計算にのらない,強度の保証がない,という大きな欠点があったからです。

 このような欠点を克服するために,色々な技術が開発されてきました。たとえば,材料全体をいくつかの強度等級に分けて,等級内でのバラツキを減少させる強度等級区分の技術や,一旦木材をひき板や単板などに加工し,それを接着剤で集成することによってバラツキを減少させる集成加工技術などがそれです。

 このような技術を用いて製造された木材製品に,機械等級区分製材品,構造用集成材,構造用単板積層材,Iビームなどがあります。これらの木材製品は性能のバラツキが少なく,また強度性能が明確であるため,大規模な木造建築に多用されており,最近では「エンジニアリングウッド」と総称されています。

写真1 工事中の出雲ドーム

写真1 工事中の出雲ドーム(全天候型運動場:島根県出雲市)平成4年3月に完成。

写真2 工事中の出雲ドーム内部

写真2 工事中の出雲ドーム内部,2台のトラックとその上に載せられたクレーン,

さらにその上で作業している人間と構造物を比較して下さい。

 

 写真1,2は代表的なエンジニアリングウッドである大断面構造用集成材を用いて建築された「出雲ドーム」を工事中に撮影したものです。写真2に写っているトラックと比較すれば,ドームの巨大さ(高さ49m,スパン140m)がよくお分かり頂けると思います。エンジニアリングウッドの技術があってはじめてこのような建築が可能になったわけですが,「木材」を「エンジニアリングウッド」に変換するための技術はまだまだ十分なものとはいえません。課題は山積されています。今後ともそれらを一つ一つ解決してゆく努力が必要です。

 

構造用スギ柱材の乾燥技術

 

幽霊のいたずら!?

 「最近,家の中で夜中に奇妙な音がする,壁がふくれて迫り出してくる,そしてドアも開かなくなった。この家は悪い霊でも住み憑いているのでは?」これは,新築間もない住宅に起こりがちなクレームです。原因は未乾燥の木材を使用した点にあります。木材は生物材料ですから水分が含まれています。工業材料として使うためには水分を抜く,すなわち乾燥工程が不可欠です。適切な乾燥をすることで,木材の割れ,曲がり,狂い等が防げます。

 

どうするスギ

 日本国産の建築用材として代表的な樹種であるスギ材は今後供給の増加が見込まれ,その利活用が各産地間での重要な課題となっています。需要者ニーズに対応しつつ付加価値の高い材料を供給するためには乾燥処理が重要な加工技術です。しかし,スギ材は最近までほとんど生材の状態で流通してきたことから,この乾燥処理に対しては技術的にも経済コストの面でもさまざまな対応が必要となってきています。

 

スギの水分整える

 スギ材は国産針葉樹材の中では含水率の高い樹種で,長さ3mの柱材1本の中にビール瓶にして約20本分の水分が含まれています。これはヒノキ材の水分の2〜4倍にも相当します。これだけの水分を取り除くのは容易なことではありません。また,柱材は普通樹心を含むいわゆる心持ち材ですから材面に割れが生じやすく急激な乾燥はできません。最も多く普及している蒸気加熱式の乾燥法でも日本農林規格に合格させるにはおよそ10〜14日間が必要です。

図1 スギ柱材の初期含水率頻度分布

図1. スギ柱材の初期含水率頻度分布

 

最新スギ柱材乾燥技術

 「ラップでおおい,水分を逃がさないようにして加熱します。」これはある電子レンジの説明書にあるフレーズです。実は柱材の乾燥法にもこれが応用できます。木材乾燥法のひとつに高周波加熱減圧式乾燥法があります。これは,誘電体(ここでは木材)に高周波電流を流して熱を発生させ,さらに乾燥炉内を減圧状態にし水の沸点を下げて急激に乾燥する方法です。この方法に,外気に放置して自然に乾かす天然乾燥と柱材をラップで包んで(表面からの水分蒸発を抑制する)加熱する工程を組み合わせると非常に急激な乾燥が実現できます。この方法は経済コストの上でも十分対応できる技術で,現在,研究室での実験段階を終え実用規模の大型装置で試験を進めています。

図2 乾燥方法の違いによるスギ柱材

図2. 乾燥方法の違いによるスギ柱材(113mm角・背割り材)の乾燥経費

(仕上がり含水率20〜25%)*1天然乾燥を含む

図3 スギ柱材の高周波減圧乾燥システム概念図

図3. スギ柱材の高周波減圧乾燥システム概念図


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