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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.23
1993.06.10

林床植物と落葉のマルチ効果の解明

土壌侵食防止の立場から

 森林土壌は,森に生きるあらゆる生命を支えるばかりでなく,水や大気をも育むかけがえのない資源です。特に,表層土壌は森林と大地の長い歳月の営みの中で創り上げられた傑作であり,環境保全や木材生産などの森林の諸機能の源は,この薄皮のような土層に集中しているといえます。そのため,この層を守り育てることが森林管理の基本となるのですが,残念ながら,人間生活とのかかわり合いの中で森林が伐採され,表層土壌が失われるというプロセスが幾度となく繰り返されてきました。今日でも,熱帯林や半乾燥地では深刻な問題です。そこで,森林生態系という舞台ではとかく脇役を演じがちですが,この表層土壌を地道に守り続けている林床の植物や落葉にスポットを当ててみたいと思います。

土壌を優しく包む緑のベール

 右の写真は,岡山県玉野市で35年ほど前にとられたものです。当時,このような“はげ山”は関西地域に広く分布しており,決して珍しい風景ではありませんでした。

 現在では,“はげ山”当時の面影がほとんど見られないほどに緑がよみがえっています。そこで,この問に起こった緑と土の変遷を,旧玉野試験地で続けられてきた実態調査から読み取ることにします。

 旧玉野試験地では,0.1〜0.3haほどの16個の試験区が設置され,そのうちの14個に各種の緑化工が施工されました。残る2個は裸地対照区です。各試験区からの侵食土砂量と植生回復状況が経年的に測定された結果,つぎのことが分かりました。

 緑化工施工に伴う植生繁茂により,侵食土砂量は急速に減少します。早い試験区では施工の翌年,その他の区でも3年目には侵食土砂量に目立った動きはなくなります(図1の下図)。このとき導入した植生による地表の被覆率はすでに80%に達していました(図1の上図)。

写真:岡山県玉野市のはげ山

図1 緑化工施工に伴う侵食量の経年変化

図1. 緑化工施工に伴う浸食量の経年変化

 施工区ではそれ以来,現在まで土壌侵食は起こっていません。ところが,裸地対照区では34年が経過した今でも土壌侵食が続いています。“はげ山”時代の侵食量(3〜10mm/年)に比較すると,2mm/年程度へと少なくなる傾向はありますが,停止するまでにはさらに長年月がかかりそうです。

 裸地からの土壌侵食を早期に防ぐには,地表を植生という緑のベールで優しく包むことが有効であり,それには緑化工の手助けが必要です。また,緑のベールは,土壌侵食のみならず,雨水の地表流出の緩和や土壌の理化学性の改善にも寄与することが分かりました。

 

落葉のブレンドにより土壌侵食を防ぐ

 つぎに,関西地域で増加しているヒノキー斉林の土壌侵食防止について考えます。ヒノキー斉林では林冠が閉鎖すると林床の植生が消え,土壌侵食が発生するため,林地生産力が低下するといわれています。ここでは,土壌侵食を防止する一つの施業法である樹種混交を取り上げ,その効果を調べます。

 図2は,ヒノキー斉林(26年生)とそこにアカマツが混交した林分からの侵食土砂量の季節変化です。地質は花崗岩です。ヒノキ・アカマツ混交林からの侵食土砂量は明らかにヒノキー斉林より小さく年間量で比較すると約1/7でした。ところが,混交林の落葉堆積層を取り除くと,侵食土砂量は大幅に増加しました。図3は、ヒノキー斉林(35年生)に落葉広葉樹が混交した場合です。地質は古生層です。やはり,ヒノキ・落葉広葉樹混交林の方が侵食土砂量は少なく,年間量はヒノキー斉林のおよそ1/11でした。

 このように,ヒノキー斉林にアカマツや落葉広葉樹が混交すると,ヒノキの落葉がアカマツや広葉樹の落葉とうまくブレンドし,その移動が止まるため,落葉層の堆積が進み,地表を全面的に被覆するようになります。その結果,落葉層が雨滴の衝撃エネルギーや雨水の地表流出を軽減するため,侵食土砂量が減少したといえます。樹種混交は,ヒノキー斉林の土壌侵食を防止する有効な施業法の一つであることが分かります。

図2 アカマツの混交による土壌侵食量の軽減
図3 落葉広葉樹の混交による土壌侵食量の軽減
図2. アカマツの混交による土壌浸食量の軽減(滋賀県栗東町)
図3. 落葉広葉樹の混交による土壌浸食量の軽減(箕面国有林)

落葉の重ね着は必要ない

 それでは,土壌侵食量を効果的に減らすのに必要な落葉堆積量はどれくらいでしょう。人工降雨装置と模型斜面を使って,この答をさがしてみました(図4)。

 ヒノキ葉のみの場合もヒノキ葉とアカマツ葉を混交した場合も,落葉堆積量が増えると,侵食土砂量は指数的に減少することが分かります。また,同じ落葉堆積量ならば,葉が混交している方が侵食防止効果が大きいことも分かります。

 また,曲線は落葉堆積量が0.6kg/m2を越えると勾配が緩くなり,これ以上落葉堆積量を増やしても,侵食土砂量の大幅な減少は期待できません。従って,ヒノキー斉林やヒノキ・アカマツ混交林の侵食土砂量を効果的に減らすのに必要な落葉堆積量として,6t/haが一つの目安になると考えられます。なお,このときの落葉による地表被覆率は88%で,ほぼ全面が被覆された状態でした。土壌侵食の防止には,地表が落葉で全面的に覆われていれば,薄くてもよさそうです。

図4 落葉堆積が浸食土砂に及ぼす影響
図4. 落葉堆積が浸食土砂に及ぼす影響

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