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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.26
1994.01.24

蒸煮・爆砕処理による木材成分の
総合利用と経済性


1 はじめに

 木材の主要成分はセルロース,ヘミセルロース,リグニンからなり,パルプ・紙をはじめ,飼料,食料,繊維,エネルギー,化学工業原料,肥料,ファインケミカルスとして高い潜在的価値をもっています。われわれは,これらの木材成分を有効に利用するために,蒸煮・爆砕処理により主成分を分別し,分別した成分をそれぞれの特性を生かして総合的に利用するシステムを開発することを目的として研究を進めてきました。

2 蒸煮・爆砕処理と木材成分総合利用システム  
 蒸煮・爆砕処理は木材チップを圧力釜の中で180〜230℃の水蒸気で適当な時間処理した後,瞬時にバルブを開けてチップを水蒸気とともに釜から放出・爆砕する方法のことです。得られた繊維は図1に示したように処理して,ヘミセルロース,リグニン,セルロースをそれぞれ分別し,甘味料,炭素繊維,接着剤,タンパク質やアルコールに変換します。この蒸煮・爆砕法の難点は,蒸煮により可溶化するリグニン量が樹種間で異なることです。図1のプロセスで利用できる樹種はヤマナラシ,シラカンバ,モリシマアカシアなどのリグニン含量の少ない一部の広葉樹に限られます。

図1 蒸煮・爆砕処理を前処理とする木材成分総合利用システム

3 分別成分の利用技術  
 3.1 へミセルロースの利用  
 蒸煮処理した広葉樹材を水で抽出すると,キシランの加水分解物であるキシロオリゴ糖がおよそl5〜20%の収率で得られます。この水抽出液は,種々の不純物や着色物質を含むので,これらを吸着剤やイオン交換樹脂で除去して,キシロオリゴ糖を精製します。また,これを還元して,キシロオリゴ糖アルコールに変えると,耐熱性,耐酸性,耐アルカリ性などが向上し,利用法が広がります。キシロオリゴ糖は難消化性で,低カロリー食品です。また,老化防止の機能をもつ腸内細菌であるビフィズス菌を選択的に増殖させるという報告もあります。菓子類,ジャム,飲料,佃煮,清酒などに使用することができます。

 
 3.2 リグニンの利用  
 水でキシロオリゴ糖を抽出した後,残渣繊維を希アルカリで抽出すると,およそl2〜20%の収率でリグニンが得られます。このリグニンをフェノリシスにより熱溶融物質に改質し,紡糸して,窒素気流中1000℃程度で炭素化すると,収率30〜50%で,汎用グレードの強度的性質をもつ炭素繊維が得られます。また,フェノリシスリグニンはホルムアルデヒドと反応させて,木材用接着剤とすることもできます。現在,市販のフェノール樹脂接着剤の性能に匹敵する接着剤が開発されています。
 
 3.3 セルロースの利用  
 セルロースは,微生物・酵素を巧みに使って,ブドウ糖に加水分解し,アルコールあるいはタンパク質に変換します。ここでの問題は,セルロースの大部分が強固な結晶を作っているため反応の効率が低く,その加水分解には大量の酵素が必要となることです。でんぷんを加水分解してl kgのブドウ糖を製造する場合には,1〜2 gのアミラーゼ系酵素があれば足りますが,セルロースからl kgのブドウ糖を製造する場合には,少なくとも,セルラーゼ系酵素25gが必要です。従って,現在のセルラーゼの活性を数10倍上げるか,廉価な大量生産法を確立するか,回収・再使用することが必要となります。

4 木材成分総合利用のシステムと経済性
 4.1 プラントの仕様とマテリアルバランス
 チップ(乾材)l00t/日(30.000t/年)の処理能力をもつ木材成分総合利用プラントを想定し,プラントの設計,イニシャルコスト,製造コスト,得られる製品の価格を試算してみました。このプラントでは,l5kg/cm2の水蒸気で,l0min 蒸煮処理したシラカンバ材から,表1のマテリアルバランスに示したように,成分を分離し,製品を製造することができます。

表1 木材成分総合利用システムにおける物質収支

 4 . 2 蒸煮・爆砕処理と成分分離工程  

 連続式蒸煮・爆砕装置で,木材チップを繊維化し,その繊維を多段向流型抽出機に送り,水でヘミセルロースを抽出します。糖濃度l5%の水抽出液が得られます。水抽出残渣は,1%Na0Hで抽出してリグニンを分離し,残渣としてセルロースをスクリュープレスで脱水しながら取り出します。アルカリ抽出液はHClで中和してリグニンを析出させ,遠心分離機で析出リグニンを回収します。

 4.3 キシロオリゴ糖精製・還元工程  
 水抽出液に含まれる重合度3以上のキシロオリゴ糖はキシラナーゼ(キシロシダーゼを含まない)でキシロビオースに加水分解します。脱色,精製し,糖濃度50%にまで濃縮して,ラネーニッケルを用いて,水素添加し,その後,活性炭,イオン交換樹脂で精製し,糖濃度70%液にまで濃縮して製品とします。

 4.4 炭素繊維製造工程  
 リグニン炭素繊維はフェノール化法で製造することとし,フェノール化時の収率はl19%で,重質化,紡糸,不融化,炭素化,検査・梱包工程を経た最終収率は42.8%となります。

 4.5 セルロース糖化,酵素生産,発酵工程  
 セルロースはT.viride 起源のセルラーゼで加水分解することとし,1日51t のセルロース(基質濃度10%)を加水分解するのに必要な酵素量(酵素濃度5%)は2.5t で,その56%を回収して,再使用すると仮定しました。糖化液は糖濃度23%にまで濃縮して,発酵工程に送ります。糖化残渣として,リグニンが10t/day得られます。

 4.6 製造コストの分析
 このプラントにおける設備投資額は ll3億円で,ランニングコストの総額は70億円となりました(表2)。各製品の製造コストは還元キシロオリゴ糖437円/kg,炭素繊維l,559円/kg,アルコール482円/kg と算出されました。キシロオリゴ糖の食品としての特性や機能と現在市販されている種々のオリゴ糖の価格から推定して,このオリゴ糖は450円/kg 程度の価値をもつものと期待しました。また,リグニン炭素繊維はピッチ系のそれと同等の性能をもつので,その市場価格は2,500円/kg 程度と推定しました。従って,これらの製造は黒字となります。しかし,アルコールは現在の専売公社の購入価格が l70円/kg ですので,セルロースからのアルコール製造は大幅な赤字となります。kg当り98円の残渣セルロースからの96%アルコールの収率が35.3%であるため,l kgの96%アルコールを得るためには残渣セルロース 2.83kg が必要であり,原料だけで277円掛かることになります。現在では,セルロースからのアルコール生産は原料のセルロースがただであれば辛うじて経済的に成り立つ段階と考えられます。各製品の生産量と期待される市場価格から,このプラントでの年間生産額は約69億円となり,およそ1億円の赤字が計上されることになりました(表2)。

表2 木材成分総合利用システムにおける製造コスト

5 おわりに  

 現在の我が国の食料・エネルギー事情は,小康状態にありますが,グローバルな視点では,常に,食料・エネルギー危機と背中合わせにあります。これらに対応して,生物の持つ優れた物質生産機能を活用し,自然界の物質循環に根ざした多様な生物素材を開発し,その有効利用を図ることがこれまで以上に重要な課題になっています。森林は生物資源の宝庫であり,天然素材として優れた感性や機能をもつ快適な衣食住用素材,合成高分子より安価な多くの工業素材,農薬,医薬として活用しうる生物活性物質等を供給することが可能です。


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