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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.27
1994.03.24

森林生態系における化学生態学的研究

-森の生きものたちの情報交換-


 森林は,量的にも空間的にも樹木が主要構成要素であり,動物,微生物はその発展,衰退等の変動に土壌・気象・水分等の要因とともに大きな影響を与えています。また,動物,微生物はそれぞれの同種,異種間でも種の維持,生存のための協同や競合の関係にあります。
 化学生態学は,このような生物同士の相互作用にかかわる生理的に活性を持つ情報物質構造,機能や生態系における意味を追求する研究分野であり,植物,動物,微生物研究者と化学を研究する者の協力のうえに成立するものです。この分野では昆虫に関係する研究も多くなされており,その中には同種他個体間の相互作用のみならず食植者一寄主植物,捕食奇生者一寄主昆虫等他種間の相互作用が含まれます。また,動物とその餌や病原菌とその宿主など競合的な関係の他,菌根菌や根粒菌に代表される共生的な関係も研究対象となります。
 森林生物部では,森林の微生物・昆虫・鳥獣の生態や管理手法の研究の他に,森林生態系を化学生態学的にも研究していますので,そのうちの3例について概略を説明します。

1.昆虫同種間の相互作用
 昆虫も,産卵により次世代を得るために,交尾相手と会う必要があります。この場合,昼に活動する仲間では視覚も重要な役割を果たしていますが,夜行性の蛾の多くは嗅覚にたよって行動しています。多くの蛾は,雌成虫が性フェロモンと呼ばれる雄成虫を誘引する揮発性の物質を放出し,雄は触角でその「匂い」を感知し,雌のいる所へ飛んでいきます。
 ヒノキカワモグリガは食害によりスギやヒノキの材にシミを作る害虫で,この虫の薬剤によらない森林の保育管理法による被害抑制法の検討については,本紙No.25で取り上げました。この蛾も交尾に性フェロモンを利用していることから,防除への利用を念頭においてその化学構造と機能に関する研究を進めております。性フェロモンについては,スギやヒノキに穿孔するカミキリや,きのこを食害する蛾についても研究を行っています。

図1

2.哺乳動物の採餌選好性
 高等動物の採餌選好性は,栄養条件だけでなく様々の要因によって支配されると考えられています。特に,野生動物が多くの摂食可能な餌の中からなぜ特定のものを選ぶかは,その種や個体の嗜好性が強く関与する場合があります。
 優良スギの選抜試験の過程で,一つのクローンはノウサギの食害を受け5年間でほぼ死滅してしまいましたが,他のクローンは順調に成長していました。この差異は,ノウサギに食われたクローンがスギに本来含まれているはずの摂食を阻害する物質を持っていない,または他クローンには含まれていない摂食を促進する物質を持っていることが原因と考えられます。そこで,ノウサギに食われるクローンと食われにくいクローンを材料として,針葉の溶媒抽出物を生の針葉又は針葉の抽出残渣に処理して摂食選好性を比較したところ,食害を受けるクローンの抽出物には選好性を高める作用があることが明らかになりました。現在,この採餌選好性を左右する物質の探索を行っています。

図2

写真 飼育場で3日間ノウサギに採餌された3種クローン


3.病原菌に対する樹木の抵抗反応
 草本性植物では,ファイトアレキシン等の抗菌性物質が病原菌に対する抵抗性反応をつかさどる物質として見つけだされ,抵抗性・感受性についての植物病理学的・化学生態学的な研究蓄積は膨大なものがあります。
 樹木特に針葉樹では,防御反応についての研究は多くありませんが,草本性植物と同じような反応が起こっていると考えられています。
 スギの木部では,病原菌の侵入・拡大に対し,健全な辺材ではみられないフェノール性成分をはじめとする物質が柔組織で生産・分泌され,菌糸が伸長していく経路である仮道管や壁孔に集積します。現在,こうした物質の中から抗菌性物質の探索を行っています。さらに,これら物質の集積と菌の進展過程を比較検討することによって,抵抗反応におけるこれら物質の有効性を明らかにする研究を進めています。

図3
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