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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.28
1994.05.13

スギ,ヒノキの着花を制御する


春は憂鬱  

 春の到来は誰にとっても待ち遠しいことですが,首都圏のl0人に1人は節分の頃になると憂鬱になるといわれています。これはスギ花粉飛散情報がテレビで放映されるほどに社会問題化しているスギ等による花粉症の蔓延が原因です。一方,スギやヒノキ材はわが国の住宅の約45%を占める木造住宅には欠かせない重要な住宅部材ですので,日本の人工林面積の3分の2はスギとヒノキで占められています。
 環境保全的役割も果たしている現在のスギ,ヒノキ林を有効に生かしつつ,かつ国民の健康を害さない方策を求めて,花粉の形成を抑制する研究を数年来実行してきました。実用化には,まだ幾つもの解決すべき問題点が残されていますが,これまでに一定の成果が得られましたので,今後府県や関連協会等での実用化試験においてよりよい解決策が提案されることを期待して,ここに紹介します。

まず,苗木で着花を制御する  
 スギ・ヒノキに植物ホルモンであるジベレリン(G A)を与えると花芽が形成されることが,30 年以上昔に発見され,採種園の種子生産などで実用化されています。このG A の生合成を阻害すれば,花芽が形成されないのではというアイデアで研究を開始しました。
 G A 生合成阻害剤として,稲の草丈成長抑制剤として使用されているウニコナゾール(Uniconazole)及びその誘導体等について試験をしました。  
写真1は最も効果の見られた化合物ウニコナゾールP(住友化学工業S一327D,以下U P と略)の結果です。2 年生挿し木苗ポットにU P 水溶液500m1を注水1週間後にG A (100PPm)を散布する(以下前処理とする)と,花芽の形成は著しく抑制され,濃度的にも5〜1000ppmという広い範囲でほぼ同程度の効果を示しました(図1)。着花抑制効果はヒノキでも見られました。なお,U P の投与は花芽が形成される前である必要があり,G A 散布1週間後のU P 投与(後処理)では,ほとんど効果がない場合も見られました。また,U P 前処理したスギ9クローンの雄花着花数は無処理の17〜36(平均23)%となり,クローンよって抑制の程度に違いがあるこが分かりました。
 ウニコナゾールは茎葉からも根からも容易に吸収され,植物体内では上方(求頂的)に迅速に移行しますが,下方(求基的)には移行しないといわれています。従って,茎葉への散布,土壌注入,樹幹注入などの投与法考えられます。

写真1 UP前処理による着花抑制状態


図1 UP前処理によるスギとヒノキの着花抑制

野外の幼齢木でも着花は制御できるか  

 12年生のスギ及びヒノキ挿し木クローン幼齢木に,U P を樹幹注入法と土中埋置法で試験をしました。樹高10m内外までの大きさの木に対しても,着花を抑制する効果が苗木同様に見られました(写真2,表1)。 ただし,樹高が10mを越える木では,中・下部には効果がありましたが,頂部には着花した例がありましたので,薬量や薬の移行性等についての検討が残されています。関東では,スギの花芽形成は7月上旬から始まるとされていますが,大木における薬の吸収・移行速度,樹体内での薬効の持続期間などが詳細にはまだ明らかありませんので,U P の効果的な処理時期についても今後究明する必要があります。なお,樹幹往入法は注入穴が偽心材化し,連年の使用ができなくなりますので,この用途は限定されると考えます。

写真2 12年生スギのUP前処理とGA処理のみの着花状態

表1 スギ・ヒノキ12年生幼齢木へのUPの施用による着花抑制例

 樹幹注入は500ppm水溶液500mlボトル2本を地上50cm高に設置。土中埋は0.04
 %粒剤を幹の周囲10箇所に50gずつ10cm深に埋置。G A は100ppm水溶液を樹幹注 入法で投与。花芽の数は樹冠中央部枝(30cm長)8本の平均値。
   *三重10号,その他のヒノキは尾鷲8号。 
   **豊作年にて無処理でも多数着花した。

残された当面の問題  

 一般には,樹齢25年から30年をすぎると着花が盛んになると考えらています。従って,高樹齢の成木での試験が必要ですが,これは,残念ながら,これから実用化試験で検討される予定です。  
 これまでの結果から考えられる当面の課題は,   
 1.薬剤量と木の大きさ(葉の量)の関係及び成長への影響     
 2.10m以上の高木への根からの薬剤の移行性,土壌中における移動性や  安定性,植物体内における薬効の持続期間等            3.ウニコナゾールは単子葉植物,双千葉植物,木本植物など幅広い植物  に対して伸長成長抑制を中心に多岐にわたる生理活性作用が想定され  るので,広範囲に散布した場合の他の植物,特に農作物などへの影響  調査,森林生態系への影響調査が必要です。人畜魚類への影響は水田  で使用されている程度の濃度であれば,問題はないと 思われます。

これからどうするか  
 今年のスギ花粉生産量は冷夏の影響で昨年の約1割程度でありました。これはスギの花芽が前年の夏に形成され,その時の気温が低いと雄花の形成が著しく抑制されるからです。また,ヒノキの花芽形成も高温・長日長という条件で起こります。このようにGAとウニコナゾールの利用,温度と日長の調節によって,スギ,ヒノキの着花を実験的に制御できる系が完成しました。  
 今後はこの系を使って,スギの着花を制御している遺伝子を探索する研究を開始します。将来,遺伝子導入技術を使って,着花を制御することが可能になるはずです。そうすれば,花粉症対策にとっても根本的な解決策になるとともに,花粉や種子によって導入遺伝子が拡散しない,つまり森林の自然生態系を乱さないという保証付の,外来有用形質を導入した新しい樹木品種の作出という夢に向かって,さらに研究を進めます。

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