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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.38
1995.07.25

動物による森の再生

〜リスとオニグルミ〜


“森の動物たちは,秋に木の実を貯えておき,餌のない冬に備えます。春になると,食べ残された木の実は森のあちこちから芽を出し,何十年も経てやがて大木となります。その木が実をつけたとき,森の動物たちはたくさんの森のめぐみをごちそうになります。その中で,いくつかはまた貯えられ,たまたま食べ残された木の実が芽を出し,やがて大木に・・・”。童話にあるような動物と植物の終わることのない関わりが,実際の森林で本当に起こっているのでしょうか? 多摩森林科学園内の森で,ニホンリスの好物オニグルミを例に,種子散布に果たす動物の役割を調べました。

発信音で位置を知る

 ニホンリスがオニグルミの種子をどのようなところに運んで貯蔵するのか,それをいつ食べにくるのかを調べるために,通常は動物の行動調査に用いられる小型の無線発信機を,餌であるクルミの種子に装着し,種子の動きを追跡しました。写真1は重さ2gほどの発信機をオニグルミの種子に装着したものです。発信機の周波数はクルミごとに異なり,受信機にキャッチされる発信音をたよりに,それぞれのクルミのありかをつきとめることができます。写真2のように,発信機付きクルミをオニグルミの木の下に備えた給餌台に置くと,さっそくリスがとりにきます。リスによって持ち去られたら,受信機であたりを捜しまわります。

写真1 発信機付きのオニグルミ種子

写真1.発信機付きのオニグルミ種子

写真2 オニグルミを持ち去るニホンリス

写真2.オニグルミを持ち去るニホンリス


どこまで運ぶのか?
ニホンリスはクルミを1個ずつ別々の所に貯える“分散貯蔵”という貯蔵方法をとります。地面に埋めるだけでなく,ときには木の又に挟んで置くこともあります。図1はリスが貯蔵した場所がクルミの木からどれだけ離れているかを示しています。15mまでの近距離に運ばれるものが多いようですが,約60mまでは運ばれる可能性がかなりあります。最高168m運ばれたものもありました。

図1 ニホンリスによって貯蔵されたオニグルミ種子の餌源からの距離

図1.ニホンリスによって貯蔵されたオニグルミ種子の餌源からの距離

クルミのその後は?
 1992年の秋に100個,翌年の秋に56個のクルミを春まで追跡しました(図2)。合計156個のうち65個はすぐに食べられ,44個は木の上に,7個は地面にそれぞれ貯蔵されました。貯蔵された91個のうち,19個(20.9%)はその後アカネズミに盗まれ,食べられてしまいました。61個(67.0%)はリスによって回収されました。この中には,一度貯蔵したものをまた違う所に運んで貯蔵し,その後回収するというケースもありました。リスが回収して食べるのは1週間以内が多く,その後2か月間は時折回収されることもありました。樹上に貯蔵されたもののうち,8個は風などで地面に落下し,回収されずに春まで放置されました。また,地面に埋められたもののうち3個は,実験を終了した春まで放置されました。結局,給餌されたクルミのうち11個(7.0%)は春に発芽の機会をもったわけです。これを年ごとにみてみると,比較的豊作であった1992年では9個(9.0%),やや不作であった1993年には2個(3.6%)が食べ残されたことになります。
図2 ニホンリスによって運ばれた発信機付きオニグルミ種子の貯蔵・消費状況

図2.ニホンリスによって運ばれた発信機付きオニグルミ種子の
貯蔵・消費状況(図中の数字はオニグルミの数)

芽生えはどこから?
 もし,リスがクルミを運び,食べ忘れたものが春に芽生えるとしたら,オニグルミの芽生えは,母樹の直下だけではなくて,離れた所からでてくるはずです。図3は1994年7月に,オニグルミの実生の位置を調べたものです。図の右下が標高の高い尾根部です。確かに母樹の直下にも実生は多くみられるのですが,それよりも約20m標高の高い尾根にも実生がかなりみられます。母樹からの直線距離は100mにも達するものがありました。これはクルミが自然に転がって移動したのではなく,動物によって運ばれたことを示しています。  実際の森林で,リスがオニグルミの種子を貯食し,春までに回収しそこねるケースがあることがわかりました。また,クルミの実生の分布からも,動物によって運搬されるものが少なからず存在することが裏付けられました。  最初に書いた森の中での動物と植物の関わりは,本当に起こっているようです。

図3 オニグルミの母樹と実生の位置

図3.オニグルミの母樹と実生の位置

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