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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.40
1995.09.20

「土砂災害の犠牲者ゼロ!」を願って

-山地に発生する崩壊の研究-



災害列島・日本
 日本は別名「災害列島」と呼ばれるほど,自然災害が多発しています。火山が分布し,急峻な地形やもろい地質構造に加え,梅雨や台風により豪雨がしばしば発生するといった自然条件は,地すべり・崩壊・土石流などによって傾斜地での土砂移動を頻繁に発生させますが,これらがひとたび人間の活動域で発生した場合には貴重な人命と財産を奪う災害をもたらします。このうち,豪雨を原因とした崩壊・土石流による土砂災害は,毎年のように発生し,自然災害による被害の約半数を占めるにいたっています。森林総合研究所では,このような山地に発生する土砂災害の発生機構の解明やその防止技術に関する研究を行っています。今回は,このうち崩壊についての研究を紹介します。

崩壊とは?
 崩壊とは,地震や豪雨を原因として,山などの斜面にある土が安定性を失い,重力により急速に流れ下る現象をいいます。豪雨による崩壊が起こるまでの過程の概略は,次のようになります(図1)。まず,雨水が土の中にしみこみ土の間を水で完全に満たされた部分が生じます。豪雨の場合にはこの水で満たされた部分が斜面の中に急激に拡大していきますが,土の持つ特徴として水で満たされた部分は土の強さが低下することから,斜面内に強度的に弱い部分が同時に拡大することになります。さらに,土に水の重さが加わる結果,斜面の下の方向に滑ろうとする力が大きくなり,この力が土の強さを上回った時に土がまとまって流れ去り,崩壊となるわけです。また,このような崩壊による土砂の流動は土石流となり,さらに長い距離を下り,下流に大きな被害を与えることが,これまでの災害跡地における現地調査より,明らかになっています。

写真 鹿児島市竜ヶ水での災害を伝える新聞記事
鹿児島市龍ヶ水での災害を伝える新聞記事
(毎日新聞 平成5年8月7日より)

図1 豪雨による崩壊発生の模式図

図1. 豪雨による崩壊発生の模式図

崩壊メカニズムの研究
 崩壊にかかわる因子がどのように影響を与えているかといった定量的な評価を行うことは,崩壊の発生が予測される斜面を精度よく見つけたり,どのような雨の状態で避難したらよいか,といった防災対策を立てる際に欠かせません。しかしながら,このような定量的評価すなわち崩壊メカニズムの解明を行うには,まだまだ越えなければならないハードルが数多く残っています。そこで,・斜面模型と人工降雨による室内実験的な方法,・物理的な法則に基づき,水のしみこみ過程と土の安定性の変化を,コンピューターによりシミュレーションする数値実験的な方法,さらに,・ 現実に崩壊した箇所を詳しく調査する方法,の3つの手法により,崩壊メカニズムの解明に向けた研究を行っています。これまでの実験や調査の結果,

1.降雨の強さが一定の場合,土の深さと崩壊が起きるまでの時間(総降雨量)との間に直線的な関係があること(図2)。

2.土の深さが斜面位置によって異なるような斜面では,浅い箇所に崩壊が起こりやすいこと(図3)。

3.崩壊が発生する際に,土の中に大きな水圧が発生し,土砂がより流れやすくなること(図4)。

4.斜面での崩壊部をある程度予測することが可能であること(図5)。 などが明らかとなり,シミュレーションによる方法が有効であることも分かりました。

図2 土の深さと崩壊時間

図2. 土の深さと崩壊時間(室内実験)
(降雨の強さは毎時110mmで一定の場合)

図3 斜面上部の土が薄い場合の崩壊発生位置

図3. 斜面上部の土が薄い場合の崩壊発生位置
(円弧で切り取られた部分)
水で満たされる部分が上部にあり崩壊位置も
上に位置しています。(コンピューター・
シミュレーションによる)

図4 崩壊発生の過剰な水圧

図4. 崩壊発生時の過剰な水圧(室内実験)
スパイク上のところで崩壊が発生しています。

図5 室内崩壊実験による土砂の移動と予測したすべり面

図5. 室内崩壊実験による土砂の移動と予測したすべり面
シミュレーションで推定したすべり面と崩壊実験で
得られた土砂の移動部分はよく符合しています。

土砂災害による犠牲者ゼロをめざして
 以上のような研究とあわせて,樹木の根による土の強さを補強する効果も次第に明らかにされてきたことから,今後は,健全な森林が持つ土砂災害を未然に防止する機能を定量的に明らかにしていくとともに,悲惨な土砂災害の根絶,すなわち「土砂災害犠牲者ゼロ!」をめざして,新たな研究を行いたいと思います。
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