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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.42
1995.11.30

広葉樹林における更新の メカニズムを探って

−種子散布・実生の生き残りと地形・ギャップ−

各地で始まった広葉樹林の研究
 かつて,森林に関する研究,特に林業の研究は木材生産に 重点が置かれたため,生産性の高い針葉樹林(人工林を含む)に関する 多くの研究成果が蓄積されました。しかし,わが国の温帯域の自然植生と して最も広い面積を持つ広葉樹林については,それが持つ機能(働き)の 重要性が指摘されながらも研究の蓄積は乏しいと言えました。森林総合研究所 では,日本各地の特徴的な広葉樹林の構造や種組成の成立メカニズムを 明らかにし,その持続的な管理を可能にするために,各地の広葉樹林の 詳細なモニタリングを行っています。
 今回は,このうち,種子の散布と実生(みしょう)の定着に関する 研究を紹介します。

いろいろな樹種が生える広葉樹林のしくみ
 わが国の広葉樹林では一般に多くの樹種が共存していますが, このような森林では,樹種によって種子が散布される場所や生き残りやすい 環境条件が異なるために,多くの樹種が共存できると言われてきました。 そこで,そのようなプロセスを詳細に調べた結果,以下のようなことが明らか になりました。

ギャップの発生で育つ稚幼樹
 林冠が閉鎖した暗い林内では,落下した種子は発芽しても やがて枯れてしまったり,林床に稚樹として細々と生き残っています。 このような林床の稚樹集団(シードリングバンク)は北海道から九州まで 各地の広葉樹林に見られ,ナラ属,カエデ属などが共通して見られます (写真1)。
 しかし,林内には当年生の実生や稚樹はたくさんあっても, それらが暗い林内で大きくなることは稀で,稚樹は風倒など森林攪乱で 生じた林冠ギャップ(木が倒れて生じた林冠の孔隙)の周辺で成長し幼木と なります(図1)。森林の攪乱は,一方では群落の構造を破壊しますが, 他方では種子や実生の定着の場(セーフサイト)を提供するわけです。

写真1 札幌市近郊の落葉広葉樹林と林床の幼樹集団

写真1.札幌市近郊の落葉広葉樹林(上)と林床の稚樹集団
(下:ミズナラ,イタヤカエデなど)

図1 宮崎県綾町の常緑広葉樹林におけるカシ類の高木・亜高木と幼木の分布

図1.宮崎県綾町の常緑広葉樹林における,
カシ類の高木・亜高木と幼木の分布
いずれの樹種でも,高木・亜高木と比較して,幼木は
少なく,幼木はギャップの周辺に集中分布している。

タネの散布パターンと実生の生き残り方の関係
 ギャップ周辺の明るいところで樹木が育つとすれば,タネがどのようにしてそこへ到達するかは重要なことです。シードトラップを設置して(写真2),タネの落下量とその分布を調べた結果,次のことが分かりました。ナラ属のドングリのように大きなタネを持つ樹種は,散布するタネの数は少なく,あまり遠くまで運ばれませんが,実生は比較的よく生き残るため,ギャップの発生を数年は待つことができます。逆にミズメのような小さなタネを持つ樹種は,タネや実生のほとんどが1年で死んでしまいますが,たくさんのタネを遠くまで散布するため,離れたギャップへ到達する可能性が高いことが分かりました(図2)。

図 北茨城市小川の落葉広葉樹林におけるコナラの落下種子の分布と実生の生残率

図 北茨城市小川の落葉広葉樹林におけるイタヤカエデの落下種子の分布と実生の生残率

図 北茨城市小川の落葉広葉樹林におけるミズメの落下種子の分布と実生の生残率

図2.北茨城市小川の落葉広葉樹林におけるコナラ,イタヤカエデ,
ミズメの落下種子(果実)の分布と実生の生残率
100m×100mの調査地での種子散布(図中,数字は1m3あたりの
種子数)を等高線で示してある(右図)。左の図は,落ちた種子の
数を100としたとき,1年後の秋までに死亡する,実生の内訳。

実生の定着に影響する環境要因
 茨城県内の落葉広葉樹林でシデ属の4樹種(サワシバ,クマシデ,イヌシデ,アカシデ)の実生の発生・生残に影響を与える環境要因を統計的に解析した結果,これら4樹種の実生は,まず種子の供給量が多く土壌の露出度の高い場所(落ち葉や草木の少ないところ)に数多く発生していました。しかし,その実生が生き残る確率は成木から離れるほど低くなり,また,サワシバを除いた3種は特に沢筋で低いことが明らかになりました。この結果は,サワシバは沢筋に生え,他の3種は斜面中〜上部で優占するという成木の分布そのものにも対応しています。また,アカシデ,イヌシデはギャップでの生存率が特に高く,ギャップ依存性の強い樹種であることを示していました。
 さらに,東北の渓畔林における調査でも,河川周辺という特徴的な立地環境のなかで実生の発生率や生残率の高い場所が,樹種ごとに特徴的に存在することが分かっています。

写真2 シードトラップを多数設置してタネの落下量とその分布を調べる
写真2.シードトラップ(白い円錐状の袋)を多数設置して
タネの落下量と,その分布を調べる


森林の攪乱に反応した樹木個体群の動態の解明に向けて

 森林の攪乱が,いろいろな樹種に定着するチャンスを与えていることは明らかです。また,それぞれの樹種は,森林攪乱や環境条件に特徴的な反応を示していることが分かってきました。
 今後は,自然攪乱に限らず,人為を含めた森林攪乱に反応した,樹木個体群の動態の解明をより一層深めていきます。
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