ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.47
1996.05.24

森林植物の遺伝的管理をめざして

-ホオノキ集団に見られる近親交配と近交弱勢の実態を探る-


近親交配が引き起こす樹木集団の衰退・絶滅
 森林の孤立化などで樹木集団が細分化されたり,送粉昆虫 (花粉を運ぶ昆虫)が減少すると,「近親交配」の度合いが高まり, 通常は発現しない有害遺伝子が発現します。有害遺伝子が発現すると, 形質劣化や繁殖力の低下,すなわち「近交弱勢」が生じ,集団は衰退・ 絶滅の危機にさらされることになります。従って,森林の豊かな 生物多様性や遺伝子を保全するためには,近親交配の度合いを高めない 森林管理技術,すなわち「遺伝的管理」が必要となります。ここでは, ホオノキ集団に見られる近親交配と近交弱勢についての研究を紹介します。

ホオノキの花
ホオノキの花

ホオノキの花は雌ずいが雄ずいよりも早く成熟しますが,個々の花は
同時期にそろって咲かないため,自家受粉が可能となります。

天然林ではどれくらい近親交配しているか?
 ホオノキは他家及び自家受粉(他個体の花粉及び自分の 花粉による受粉)ともに可能です。自家花粉で種子をつくること,すなわち 「自殖」は,一種の近親交配とみなされるので,天然林で自殖がどの程度 生じているのかが問題となります。北海道の集団で種子を採取して酵素に よる遺伝分析を行ったところ,自然受粉種子に占める自殖種子の割合, すなわち「自殖率」は0.4〜0.5(40〜50%)と高いことが判明しました。

自殖種子に出現する障害(近交弱勢)
自殖種子と他殖(他家受粉)種子を育ててみると,自殖種子は 他殖種子よりも発根異常・開葉異常による死亡率が高く,当年生の自殖苗の 生存率は他殖苗の値の50%以下となりました。苗高や葉面積についても, 自殖苗は他殖苗より小さいことから,競争がきびしい天然林では,自殖苗と 他殖苗の生存率には大差があると予想されます。

図 ホオノキ当年実生の生存率の推移

天然林での自殖種子の運命

 種子集団と成木集団についてそれぞれ酵素による遺伝分析を 行い,近親交配の程度を表す近交係数を両者で求めることができれば, これらの値と自殖率から近交弱勢の程度を計算することができます。 この結果,大部分のホオノキ自殖種子は,死亡や成長劣化のために繁殖可能 な個体に成長できないものと推定されました(下式)。

ホオノキ集団の近交弱勢の大きさ
1-自殖種子の適応度/他殖種子の適応度=0.98

適応度:1個体が次世代に残した子の数

他殖種子をより多く採るためには?
 人工林や遺伝資源保存林を作るための種子を天然林から 得るためには,近交弱勢を示す自殖種子をさけ,他殖種子を多く選ぶ方法が 必要となります。そこで袋果内の種子数に着目して他殖種子を選別する方法 を考案しました。
 ホオノキの果実は100〜150個の袋果で構成されています。袋果とは写真に 見るように袋状で,1個の袋果は0〜2個の種子を持っています。雄ずいに 自家花粉と他家花粉がランダムにつくと仮定したモデルを用いて検討した ところ,種子を2個持つ袋果のみから種子を採ることによって他殖種子を より多く得られることが示唆されました。

ホオノキの袋果

ホオノキの袋果
種子を1個持つ袋果(O)と2個持つ袋果(T)が見えます。


自殖率を高める要因は?

 北海道のホオノキの花粉は,カミキリモドキなどの甲虫類に よって運ばれます。一般に甲虫類はマルハナバチやミツバチに比べて花間の 移動頻度が低く,移動距離も短いため開花木の本数が減ると開花木間を移動 する甲虫数も減少し,自殖率が高くなると予想されます。
 自殖種子には,強い近交弱勢が現れることから,集団の自殖率が100%に 近づくと短期間で個体数が減少し,絶滅の危機にさらされることになります。 開花木の本数と自殖率との関係,森林の孤立化・断片化が送粉昆虫の動態に 及ぼす影響などを解明することが残された課題です。
ホオノキの花に飛来した甲虫

ホオノキの花に飛来した甲虫
訪花した甲虫は花粉を食べます。


企画・製作 北海道支所 お問い合わせはこちらまで・・・
森林総合研究所 企画調整部 研究情報科
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720
E-mail kouho@ffpri.affrc.go.jp

目次一覧