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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.48
1996.06.20

流れる雪に抗して生きる

   

-樹木はどのように地面に根を張っているか?-

流れる雪
 氷河を見た人はいませんか?氷河はじっと止まっているように見えますが,ゆっくりと時間をかけて流れ下り,山を削り土砂を運びます。日本の山地に積もった雪も,春に融けてしまうまでの間,氷河と同じように斜面をゆっくりと流れ下ります。それは積雪グライドと呼ばれています。その際に,積雪に埋っている樹木には,時には数トンにもなる“積雪移動圧”という力が加わります。それでは樹木はこのような強大な雪の力に押し流されずに生きていくために,どのように地面に根を張っているのでしょうか?今回は東北地方の多雪地帯の天然林の主要な樹種である,ヒバ,コナラ,ブナについて,それらの根が成長に伴ってどのように発達するのかを紹介します。

樹種ごとに異なる根の量
 根は水や養分を吸収するだけでなく,樹体を支えるという大切な役目を担っています。樹種によって,地上部の大きさの割に根の多いものと,少ないものとがあります。ヒバはコナラやブナに比べて根の量が少ない樹種といえます(図1)。

図1 ヒバ、コナラ、ブナのT/R率

樹種によって異なる根の張り方

 図2は,斜面のどの方向にどれくらいの根があるのかを示したものです。いずれも樹高は約4〜6m,胸高直径が5〜7・の木です。ブナは水平方向に均等に,コナラは鉛直方向に特に根を張っています。ヒバは斜面の上方向の根が極端に少ないことが分かります。このように,根の張り方も樹種によって異なります。

図2 ヒバ、コナラ、ブナの方向別の根の量

写真1 ヒバの根本曲がり

写真1. ヒバの根元曲がり
  
a;幹,b;発芽点,c;埋幹部,d;支持根

少ない根をどうやって補うか
 雪国に生育する樹木は共通して根元曲がりという特徴的な樹形をとります(写真1)。根元曲がりは積雪移動圧に抵抗できない柔軟な木が,積雪移動圧によって樹体が地面に押さえつけられることを繰り返す結果できます。そして,根元が曲がった幹のうち,地面に接しているか,あるいは地中に半ば埋まったような状態にある部分を,特に埋幹部と呼びます。  ヒバは他の樹種よりも大きな根元曲がりの形態をとり,しかも埋幹部から発生した根で埋幹部を地面に固定することによって重心を下げ,樹体のバランスを保っています。つまり埋幹部を根にしてしまうわけです。また根元の谷側には,樹体を斜面下方向から支えるかのように,“支持根”と呼ばれる不定根を発生します。  ブナもヒバと同様にこのような支持根を発達させることによって,鉛直下方向に根を伸ばすようになります。これに対して,コナラは発芽初期から鉛直下方向に根を発達させ,逆に支持根の発達は,あまり見られません(図3)。

図3 積雪移動圧の環境下で育成するヒバ、コナラ、ブナの成長過程の模式図

図3. 積雪移動圧の環境下で生育するヒバ,コナラ,ブナの成長過程の模式図

 このように樹木の根の張り方や量には,樹種ごとに一定のパターンがみられます。  天然林は,単純一斉な人工林に比べて複雑な階層構造を持っており,地中の根の分布についても同様のことがいえます。つまり,様々な樹種の根系が地中で複雑な階層構造を作っているのです。天然林が保全上好ましいのは,広葉樹だからではなく,多くの樹種がいっしょに生育しているからなのです。森を作る場合にも,“幾つかの樹種をいっしょに育てる”ことの大切さを多雪地に生育する天然林は教えてくれます。

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