ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.49
1995.11.30

シラカシのドングリ

その誕生から1才3か月になるまでの運命


ドングリの運命や如何に?
       
 種子の運命を明らかにすることは,森の木々がどのようにしてどのくらい子孫を残しているかという現状の把握と,人の技術によって子孫をより多く残すようにする方法の開発に役立ちます。 森林総合研究所関西支所に隣接する桃山御陵はシイ・カシ類を中心とした常緑広葉樹に被われており,毎年たくさんのドングリ(シイ・カシ類の種子)が落ちてきます。ところが,ドングリから発芽して実生(みしょう)となったものは非常に少ないのです。いったいどうなったのでしょう。そこでシラカシのドングリの誕生から1歳3か月になるまでの運命を調べてみました。

早期落下
       
 5月に開花して誕生したばかりの,まだ小さな小さなドングリはしばらくはほとんど成長せず,9月になって急速に大きくなります(図1)。ドングリは落下する前にどのような被害を受けたかを調べるため,調査木の樹幹下に受け布を張り,落ちてきたドングリを採集しました。9月までに総落下数の66%,じつに3分の2ものたくさんのドングリが子葉未発達の状態で早期落下してきました。この原因は分かっていませんが,それぞれのサイズが小さいため,早期落下による損失量(重さ)は,たった3%にすぎないことが分かりました。

図1 シラカシドングリの成長

図1.シラカシドングリの成長

イラスト 小さなドングリの早期落下

落下前の虫害は意外と少なかった
  
 9月以降のドングリの肥大成長期にはゾウムシ類の産卵やガ類幼虫の食入といった加害がみられます。なかでも食用のクリでもよくみられるクリシギゾウムシによる加害が最も多くみられました(写真1)。落下前の被害量は全体の18%で,ブナやナラ類での過去の調査結果と比べて少ないものでした。その結果,68%は成熟した無被害のドングリとして落下しました。1m2当たり276個!にもなり,もしすべてが発芽すれば,シラカシ樹冠下の地表はその実生だらけになるはずですが……。

写真1 クリシギゾウムシ

落下後の虫害
      
 実生だらけにならない理由は,落下後のドングリを専門に加害する昆虫によってほとんどのドングリが食べられたからでした(図2)。落下後のドングリを定期的に採集したところ,6月以降にドングリキクイムシ(写真2)の加害が急激に増し,また3月〜6月にかけてガの1種,クロサンカクモンヒメハマキ(写真3)による加害が増えることが分かりました。その結果,8月7日の時点で何も被害を受けていないドングリはほとんどなく,生き残ったのは1m2当たり8.3個(総生産数の0.6%,総生産量の2.1%)になってしまいました(図3)。

図2 成熟したカラカシドングリの落下前・落下後の採集数

図2.成熟したシラカシドングリの落下前・落下後の採集数

図3 落下後生存率と胚軸無比害果の発芽率

図3.落下後生存率と胚軸無比害果の発芽率

写真2 ドングリキクイムシの加害 写真3 ヒロサンカクモンヒメハマキ成虫

落下後のドングリに侵入する昆虫による食害が最大の死亡要因だった!
 
 シラカシのドングリは5月以降徐々に発芽して実生となり(図3),ほとんどが8月(ドングリの誕生から1年3か月目)までに葉をつけてドングリと別れを告げ,独立した当年生実生になります。そこに至るまでの運命を述べてきましたが,まとめると次のようになります。

  1)開花後9月までの早期落下による死亡数が多い
  2)量的には,特に落下後の虫害による損失が大きい
  3)翌年8月まで生き延びたのは総生産数の0.6%,1m2当たり8.3個

独立した当年生実生

 もし,落下後のドングリを食害する昆虫をうまく除去することができたなら,シラカシ樹冠下の林床はその実生だらけになるでしょう。しかしこれは自然の摂理に反するかもしれません。自然は微妙なバランスをのなかで存在しています。人の手を入れるときは,このバランスを大きく崩さないように,十分に注意を払う必要があります。そのためには,森をもっとよく理解しなければなりません。
企画・製作  関西支所 お問い合わせはこちらまで・・・
森林総合研究所 企画調整部 研究情報科
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720
E-mail kouho@ffpri.affrc.go.jp

目次一覧