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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.50
1996.08.09

表層土壌の移動を防ぐには?


荒れたヒノキ林 −林地における地表侵食−
 森を散策したときの木漏れ日と,地表に敷きつめられた落ち葉のふかふかな感触は皆さんも経験されていると思います。ところが,植林された林,特にヒノキの林では,暗くて,落ち葉がほとんど地表に積もっておらず,地表に根や礫が露出している様子を目にすることがあります。また,地表には,表層の黒い腐植層ばかりではなく,下層の褐色の土層が露出していることもあります。このような光景は,「荒れた林」という印象を私たちに強く与えます。多くの場合,それは除伐や間伐といった手入れが遅れているヒノキ林です。このような林では,雨によって土や礫が移動して,侵食が起こりやすくなっています。
 ここでは,手入れの遅れているヒノキ林の地表侵食がどのくらい大きいかについて調べた結果を紹介します。

   
写真1 地表に根や礫が露出しているヒノキ林

写真1. 地表に根や礫が露出しているヒノキ林

手入れの遅れているヒノキ林での土砂移動量
 高知県北東部の大豊町で,ほぼ同じ傾斜(35〜38度)の斜面にある間伐遅れになっているヒノキ林とスギ林,落葉広葉樹二次林,うっ閉したアカマツ林の4種類の林で,土砂受け箱を用いて土砂移動量を測定し,比較してみました。その結果,間伐遅れになっているヒノキ林での土砂移動量が飛び抜けて多く,次いで,スギ林,落葉広葉樹二次林,アカマツ林という順に土砂移動量が減少することが分かりました。間伐遅れになっているヒノキ林では,アカマツ林の100倍以上の土砂が移動しているのです。

図1 4種類の森林における土砂移動量の比較

図1. 4種類の森林における土砂移動量の比較

(測定期間:1993.5.26〜1994.1.12)

林床の堆積有機物層の役割
 どうしてこのような大きな土砂移動量の違いが生じたのでしょうか。間伐遅れになっているヒノキ林の地表には,堆積有機物がほとんど認められず,根や礫が露出していて裸地のようになっています(写真2)。ところが,うっ閉したアカマツ林の地表には,落葉が厚くマットのように覆っています(写真5)。間伐遅れになっているスギ林や落葉広葉樹二次林でも,落葉が地表を覆っています(写真3,4)。このような地表を覆っている落葉や落枝,またそれらが分解してできた堆積有機物層の量や覆いかたの違いが,土砂移動量の違いの原因となっていると考えられます。
 地表における土砂移動は,雨滴による衝撃によって土の粒子が飛ばされたり,地面の浸透能力を上回る雨が降ったために地表を流れたりすることによって起こります。堆積有機物層があれば地表面が保護されるために土砂移動は起こりにくくなります。また,今回は詳しいことを省略しますが,林床植生も地表面を保護する効果があります。ヒノキの落葉は,鱗片状に細かく分解して土粒子と混じり合うという特徴があります。このために,地表面を保護する効果が弱くなりがちです。さらに,間伐遅れになった林では,林内は暗くて下層植生も生えにくくなります。このようなことによって,間伐遅れになったヒノキ林では,地表が雨滴の衝撃や地表を流れる水のために土砂移動が激しくなるのです。

写真2 間伐遅れになっているヒノキ林の林床

写真2. 間伐遅れになっているヒノキ林の林床

  
写真3 間伐遅れになっているスギ林の林床

写真3. 間伐遅れになっているスギ林の林床

  
写真4 落葉広葉樹二次林の林床

写真4. 落葉広葉樹二次林の林床

 
写真5 うっ閉したアカマツ林の林床

写真5. うっ閉したアカマツ林の林床

   
 間伐遅れになっているヒノキ林で土砂移動量が多いということは,人間が作った森林をそのまま放置しておくことが,林地保全という面から見たときに大きな問題となることを示しています。森林には,その種類によって樹冠の塞がりかた,林内における雨滴の落ちかた,落葉の量とその分解の仕方など,様々な違いがあります。人工林においては,除伐,間伐といった手入れを適切に行い,地表を保護する機能を高めることによって,土砂移動を最小限に押さえて林地を保全する必要があります。

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