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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.51
1996.10.30

森を伐ると赤土が出るか?

沖縄の赤土流出問題



赤土はどうして流出するか
 沖縄といえば海,とりわけエメラルド色の珊瑚礁が有名です。この珊瑚礁が近年かなり被害を受けていることが分かってきました。マスコミでも大きくとりあげられたオニヒトデの食害もありますが,陸地から流れ込む赤土によって死滅した珊瑚礁も数多く見られます。赤土は熱帯から亜熱帯地域によく見られ,粘土分に富んだ緻密な土壌です。この土壌は水の浸透が悪く,強い雨が降ると雨水の多くが土壌表面を流れ(これを表面流といいます),粘土も分散しやすいため侵食を受けやすいという特徴があります。赤土は主に森林を農地等に開発した地域から流出するといわれていますが,森林地帯からは赤土はなぜ流出しないのでしょうか。


森林が赤土を流出させないわけ

 森林では大雨のときでも川の水は赤くなりません。濁りもわずかです。これは土に次のような特徴があるからです。畑の土と森の土を比較しますと(図1),森林の土の表面には樹木の落葉により落葉層がつくられ,表層は腐植に富み孔隙が多い土となっています。この層をA層と呼びますが,A層は水を浸透させやすく,森林では大雨が降ってもほとんど表面流が発生しません。樹木や下層植生,落葉層に保護されているので,強い雨が降ってもA層が侵食されることはありません。一方,畑の土では赤土が表面に露出しており,強い雨が赤土を直撃し,表面流をすぐに発生させます。森林を伐った場合には赤土流出は起こるのでしょうか。      

図1 沖縄の土壌断面

   図1. 沖縄の土壌断面 

森林を伐採すると?

 それでは森林を伐採するとどうなるでしょうか。まず,雨滴の衝撃が直接土壌に当たるようになります。また,落葉・落枝の供給がストップするため,土壌表面を保護している落葉層は急激に分解されてなくなりA層が露出するようになります。このような状態になると,強い雨にたたかれて土粒子が飛散し,侵食を受けるようになります。
 森を伐った場合に,赤土の上にある落葉層やA層がどのくらい侵食されるのか,現場からたくさんサンプルをとってきて人工的に雨を降らせて確かめてみました。比較のために赤土(B層)についても同じ実験を行いました。実験に使用したのは沖縄本島北部に分布する3種類の土壌で,落葉層や土壌のB層が鮮やかな赤色を示す「赤色土」,B層がオレンジ色〜黄色を示す「黄色土」,そしてA層が灰色になっている「表層グライ系赤黄色土」です。時間雨量に換算すると100mmの雨(集中豪雨ですね)を10分間降らせた時に,表面が何mm程度削られるかを示したのが図2です。激しい雨の割には,落葉層・A層は侵食量が少ないのが分かります。B層は落葉層・A層に比べて数倍の侵食量を示しますが,ほぼ同じ条件下で行われた畑地の赤土の侵食実験と比べて10分の1程度しか侵食されていません。これは,畑の土が耕されて柔らかくなっており雨滴の衝撃で飛散しやすいのに比べ,森林の土壌のB層は自然状態のままでかなり堅いためと考えられます。このように,落葉層のある森林土壌は,雨による侵食に対してかなり抵抗力があることが分かりました。
 樹木や下層植生がない状態が長く続けば,落葉層が消失し浸透能の高いA層も徐々に侵食されて,やがては赤土が流出するようになると思われます。しかしながら,植物の生育が旺盛な沖縄においては,切り株から新芽が出たり明るいところを好む植物が侵入して,地面の露出が少なくなっていきます。植生で完全に地面が覆われると,雨滴の衝撃が緩和され,侵食がほとんど起きなくなります。
図2 侵食実験の結果

図2. 侵食実験の結果


伐採地から赤土を出にくくするためには

 森林の土壌は侵食されにくいことは分かりましたが,実際に伐採が行われた場合には様々な問題が生じてきます。まず伐った木材を搬出する際に,地表面を荒らしてしまう危険性があります。沖縄のA層土壌は,厚さ5〜10cmくらいしかないところが多く,激しい撹乱を受けた場所では,赤土が露出してしまいます。伐採地に大型車両を入れる時には,通行面積を最小限にするような工夫が必要です。また植林後の下刈りは稚樹の成長に支障がない程度にとどめ,地表面がなるべく露出しないようにすることや,斜面の下方は伐採せずに土砂流出防止林として残すなどの方策が必要となるでしょう。現在問題となっている稀少動植物の保護の面からも,森林伐採には細心の注意が必要です。
図3 伐採地の土壌侵食模式図
図3. 伐採地の土壌侵食模式図


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