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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.54
1997.02.25

熱帯雨林が気候に及ぼす働きを測る

− 半島マレーシアにおける森林−大気間のエネルギー・水蒸気輸送量のモニタリング −


なぜ実測が大切なのか
 最近では,陸地表面の気候への影響,つまり,森林か草地か砂漠か雪でおおわれているかどうかといった陸地表面の条件や,その変化が気候に及ぼす影響を大気循環モデルによって説明することができるようになってきました。例えば,地球規模では,アマゾンにおける森林消失が,気温や降雨を変えてしまうことがすでに予測されています。また,局地的な気候への地表面条件の影響として,都市化が進む地域に森林を適切に配置して,猛暑の緩和を図るといった課題も重要になっています。
 さて,このようなモデルによる予測を行うには,陸地面が大気や海に比べて地形や土地利用の複雑さを持つため,大気圏をできるだけ細かな格子に分ける必要があります。しかし,実際にモデルが高精度を発揮するためには,格子毎の大気と地表面の間でのエネルギーや水蒸気のやりとりを正しく把握していなければなりません。そのためには,たとえリモートセンシングを活用できたとしても,代表地点での実測を省略することはできません。今回は,このためにマレーシアの熱帯雨林で行っている気象観測について紹介します。

森林でのエネルギー交換とは
 まず,地表面と大気間のエネルギー交換の基本について説明しましょう。
 地表面には,太陽からの日射などの「放射エネルギー」が与えられており,植生などに吸収される放射エネルギーのほとんどは,水の蒸発に使われる「潜熱」と,空気を直接暖める「顕熱」に交換され,空気の渦によって上空へ輸送されます(図1)。この配分の割合は,地表面の状態によって異なります。例えば,乾いた地面に水をまいて涼しくなるという場合,水まきによって「潜熱」が増加し, 「顕熱」が減少するということになります。

図1 森林におけるエネルギー・水蒸気の交換

図1. 森林におけるエネルギー・水蒸気の交換

 「顕熱・潜熱」の輸送量を実測することは, なかなか難しいのですが,森林総合研究所の本支所では,国内各地の森林試験地で観測を 行うとともに,測定手法やモデルの開発を進 めています。熱帯雨林においても,半島マレーシアのネグリスンビラン州パソー森林保護区において,高さ52mのタワーで観測をしています(写真1,2)。熱帯雨林には,ところどころに,通常の樹冠層をつきぬけた樹木があり,その高さは約45mに及んでいます。そのため,森林全体から大気へのエネルギーや水の輸送量を測るためには,52mもの高いタワーが必要になるのです。

写真1 マレーシアの熱帯雨林に設置された52mの観測タワー

写真1. マレーシアの熱帯雨林に設置された52mの観測タワー

写真2 タワーにおける気象観測

写真2. タワーにおける気象観測

観測から分かってきたこと

 タワーにおいては,その最上部において,放射 エネルギー・風向・風速・雨量・気温・湿度を測定しています。気温・湿度については,より樹冠層に近い高さでも測定し,2高度の値の差を求めて,水蒸気輸送量(潜熱)と大気加熱量(顕熱)を推定しています。また,タワーの真下では,地中への熱輸送量・地温・土壌水分量を測定しています。
 観測結果を見ると,蒸発に使われる「潜熱」のウェートが半分から9割くらいあって,大気加熱が小さいことが分かってきています(図2)。これは,大気を加熱する「顕熱」を少なくする効果が発揮されているということになります。ただ,土壌水分の観測結果と比較すると,降雨のほとんどない日が続いた場合に,土壌が乾くとともに,「潜熱」の占める割合がやや低くなる傾向が見ら れました。
 以上の観測の他,樹冠から林床付近にいたる気温・湿度・風速の分布の測定を行って,林内の空気や樹体の貯熱量を推定しました。さらに,熱帯林の二酸化炭素の吸収・放出量の推定などをねらって,より詳しい現場観測にトライしているところです。    


図2 エネルギー輸送交換量などの日変化観測結果

図2. エネルギー輸送交換量などの日変化観測結果

おわりに

 地球環境問題を話題にするとき,温暖化がどれくらい進むのか,二酸化炭素の吸収・放出量がどのくらいかは,モデルの出力を図表で見ることにより,すでに分かっているような気になることがあるかもしれません。しかし,現場での地道な観測による検証がなされない限り,絵に描いた餅になってしまいます。
 最後に,マレーシア森林研究所水文研究室のご尽力に感謝するとともに,本研究が環境庁地球環境研究総合推進費によって実施されていることを記します。

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