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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.56
1997.04.18

木材から有害な紫外線をカットする
フィルムを造る


本当は恐い紫外線  
 太陽光には紫外線,可視光線,赤外線などが含まれています。 海や山,戸外で日焼けするのは,紫外線に対する皮膚の防御反 応でメラニンという黒い色素ができるからです。日焼けは健康のシンボルのように思われていますが,日光浴のし過ぎは身体に有害です。  
 1985年末にオゾン・ホールの存在が発表されて世界に衝撃を与えました。オゾン層が壊れると,大気圏に到達する紫外線が増加して,皮膚ガンの増加,白内障の増加,免疫力の低下,農作物の収穫減少,海洋生物の食物連鎖の基礎となるプランクトンの減少など,多くの被害を受けることが予測されているからです。  
 この他に紫外線は建造物の劣化,肌の老化,食物の香味の損失や衣類の変色などの現象を引き起こします。紫外線の数々の有害性が明らかにされて,その害を防ぐ技術が注目されるようになりました。

本当は怖い紫外線

紫外線とリグニンの巡り合わせ  
 海に生存していた植物の祖先が上陸の準備を始めたころ,海上や地上には太陽から紫外線が強烈に照りつけていました。そのため植物の祖先は紫外線から身を守る物質,すなわち紫外線吸収物質が必要でした。長い年月を経て植物は木本類と草本類に進化しました。樹木が高い背丈に成長できるのは年輪を重ねて肥大成長し,細胞壁ではピアノ線のように強靭なセルロースフィブリルが配列し,細胞と細胞の間及びフィブリルとフィブリルの間をリグニンが接着剤のように固めているからです。  
 リグニンの分子構造の中に六角形のベンゼン環があり,これが紫外線を吸収する機能(秘密)を持っています。そのわけは,光は音波や電波と同様に波の性質を持ち,赤外線<可視光線<紫外線の順に振動数が多く(高く)なりますが,ベンゼン環は紫外線の振動数に共鳴して,紫外線のエネルギーを吸収するからです。  
 植物の祖先が上陸する頃にできた紫外線吸収物質と樹木のリグニンの関係は謎ですが,植物進化のテーマとしては大変興味深いことではないでしょうか。リグニンには進化の知恵が凝縮されています。そのほんの一つの知恵を借りて,木材から紫外線を遮断する透明なフィルムを造る研究を行いました。

木材細胞壁のリグニンとセルロースの構造


木材から紫外線カットフィルムを造る  
 まず木材からリグニンを抽出して,これをフィルムに添加する方法を考えました。木材からリグニンを抽出する方法は多数ありますが,人間や自然環境に優しい方法でなければなりませんので, 「酢酸蒸解法(さくさんじょうかいほう)」による抽出を採用しました。蒸解用の薬品は数%の水と極微量の塩酸を含む酢酸です。この薬液を加熱して木材からリグニンを抽出します。薬液は回収して繰り返し使います。  

リグニンを含む酢酸セルロースフィルムの変色抑制効果


 スギの鋸屑から抽出したリグニンと酢酸セルロースからフィルムを生成しました。このフィルムが植物染め繊維の紫外線による変色を抑えることができるかどうかテストも行いました。グラフは藍染繊維をフィルムでカバーして紫外線を当てた時の繊維の変色の程度を色差で示しています。色差の測定法と計算法は規格で決められています。色差(ΔE*)の値が0であれば変色はないことを示します。1になりますと色の変化が人間の目に感じられるようになります。紫外線が透過する市販のラップ用フィルムは変色を抑えることができませんが,リグニンを含む酢酸セルロースフィルムは,合成の紫外線吸収剤を含む市販の紫外線カットフィルムと同様に,変色を抑制できることが明らかになりました。
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