ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.57
1997.05.20

人工林を脅かすツル植物


どんな植物か  
 ツル植物とは,自分の近くにある支持物(他の植物体や岩壁など)を利用して体を支えながら成長する植物のことをいいます。体を支える方法は,1.茎が巻きつく,2.巻きひげなどでからみつく,3.付着根を出してはりつく,4.トゲなどでひっかけよりかかる,などに分けられます。日本列島には約6千種類の高等植物が生育するといわれていますが,そのうちの約5%がツル植物で占められています。一般にツル植物は高温多雨な生育環境を好み,南へいけばいくほどその地域に占める割合が大きくなります。日本の造林地は,表に示すようにツルがよく発生し,ツル切りなどが適正に行われないと植栽木に大きな被害を及ぼします。巻きつき型ツル植物は,植栽木の幹に巻きつき,木材の材質を著しく低下させます(写真1)。

写真1 ヒノキの幹に巻きついたフジ
写真1. ヒノキの幹に巻きついたフジ

表. 日本各地のツル被害
表 日本各地のツル被害
また,クズやヤマブドウなど大型の葉を持つツル植物は,植栽木の樹冠を覆ってしまい成長を妨げます。ツル植物は他の雑草木と異なり,直に植栽木に接するので,木に与える影響もより直接的で深刻であるといえます。

なぜツルは細長い  
 造林木にとって,ツル植物の怖いところは何といっても「よく伸びる」ことでしょう。フジの実生稚樹で調べたところ,1日に伸びた茎(ツル)の長さは平均で8.3cm,最高で12.2cm(6月計測)に及びました。1年で伸びる長さは10mにもなります。クズでは,ほふく茎1mから実に20mのツルが伸びたという報告があります。  
 こうした茎の驚異的な伸長量は茎(ツル)の細長い形と深いかかわりがあります。つまり,ツル植物は自分の体重を自己組織で支える必要がないため,茎の肥大成長にまわす投資を伸長成長にまわしていると考えられるからです。実際,適当な大きさのツルを切ってみると,穴(道管)だらけでいかにも安普請にみえます。このような性質を持つため,ツル植物は造林木が何年もかけて成長する高さをごく短期間で登り,葉を広げることができます。    

ツル被害は集中的に発生する  
 それでは,実際にツルがどのように造林木に被害を与えているのか,茨城県筑波山のヒノキ林で調査した例を見てみましょう。1996年にl8年生のヒノキ林300m2を調べたところ,ツル植物に何らかの形でとりつかれていた植栽木は,本数にして全体の40%ありました。また,そのうちの70%(全体の28%)は幹にツルが食い込む,幹が二股になる,また過去に巻きつかれた跡がある,などの深刻な被害を受けていました。被害率28%くらいなら,除伐,間伐を行う過程で取り除いていけば問題ないと思われるかもしれません。しかし,実際は下の図で示したように,ツル被害は集中的に発生することが分かりました。これでは被害木を除いた後に大きな空間ができ,好ましくありません。こうした現象はツルが,被害木から隣の健全木へと樹冠を伝って渡ることにより生じると考えられます。
図 ツルによる被害木の分布

図. ツルによる被害木の分布  

 このヒノキ林では,フジ,ミツバアケビ,シラクチヅルなどの比較的茎(幹)の寿命の長い巻きつき型のツルが目立って被害を与えていました。l983年(林齢5年)に同じ林分を調査した時は,ノブドウ,ノイバラなどの巻きつき型以外のツル植物もたくさんあったのですが,時間が経過するとともにこれらの種は消失していました。このように,ツル植物の生育タイプや幹の寿命によって,植栽木とのかかわり合いがずいぶん異なることが分かります。一方,たとえ茎の寿命が短い種類(へクソカズラなど)でも,若い植栽木に巻きつくと幹に食い込み,ツルが枯れた後も巻きつき跡を残していました。ひどい時は写真2のような幹折れを引き起こすことさえあります。         

写真2 ツルによる幹折れを起こしたヒノキ
写真2. ツルによる幹折れを起こしたヒノキ

ツル被害は防げるか  

 なかなか厄介なツルですが,これを防除するには,こまめに林を見回ってツル切りするのが今のところ一番確実です。ところがそのツル切りも,近年の林業労働力不足とともに適正に行われなくなりました。ある試算ではツル切りにかかる労働力は3.1人/ha程度ですが,それすらも十分に実行されていないのが現状のようです。ツル被害を防ぐためには,まず何よりも林業を採算性のあるものにしていく努力が必要だと思います。一方,ツル植物を対象にした研究はまだまだ少なく,どのような仕組みで物に巻きつくのかといった生理学的な側面,またどのようにしてツルという形質を獲得したかという進化生態学的側面などは,ほとんど明らかにされていません。こうした基礎的な研究を進めることによって,新しい防除技術を開発することがこれからの課題です。

企画・製作   生産技術部 お問い合わせはこちらまで・・・
森林総合研究所 企画調整部 研究情報科広報係
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720
E-mail kouho@ffpri.affrc.go.jp

目次一覧