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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.62
1997.10.24

森の細菌,樹木をガンにする

― 新病害「イヌエンジュがんしゅ細菌病」の研究から ―

 森林の適正管理を考える上で,樹木病害の研究は,とても大切です。
 病害は,糸状菌(カビ)や細菌,ウイルスなどの微生物の寄生によって引き起こされます。いままでに知られている主要な病害のほとんどは糸状菌によるもので,他の微生物による病害は,どちらかといえばマイナーな存在でした。しかし最近になって,「細菌」による病害が,にわかにクローズアップされ,重要なものとなりつつあります。その一つが,「イヌエンジュがんしゅ細菌病」です。

病原菌は?
 Pseudomonas syringae(シュードモナス・シリンゲ)という細菌です。大きさは1〜2μm,写真1を見ればおわかりのように見かけは病原性大腸菌O-157にソックリなヤツです。

写真1 病原細菌 Pseudomonas syringae
写真1. 病原細菌 Pseudomonas syringae


どんな病害か?
 その被害は,他に例がないほど強烈。写真2のような縦長のがんしゅが,枝にも幹にも形成されます。病状が進むと,樹皮がはげ落ちて材が露出するため,材の利用価値が著しく低下してしまいます。また,がんしゅが幹を一周すると,そこから上部は枯死してしまいます。

写真2 主幹部に形成された縦に長いがんしゅ
写真2. 主幹部に形成された縦に長いがんしゅ

 がんしゅ部には,病原細菌以外にも,多くの昆虫類や,糸状菌類が生息しており,これらが,がんしゅ被害をより激しくしているのではないかと考えられます。


発病のメカニズム
 何らかの傷口から樹体に侵入した細菌は,まず形成層付近に柔細胞の異常な増殖を引き起こします。その結果,樹皮が隆起して指頭大のこぶ(写真3)ができ,さらに柔細胞が増殖し続けると,やがて外樹皮が裂開します。どういうわけか,このこぶは縦方向に連なって形成されます。従って,裂開したこぶどうしが癒合した結果,縦長のがんしゅになるのです(図1)。病状の進行は,夏の終わりには終息し,細菌は組織内で越冬します。翌春,樹体が活動を始めると同時に,細菌も再び増殖を始め,樹皮外にあふれ出た細菌塊が新たな感染源となります。

写真3 主幹部に形成された指頭大のこぶ
写真3. 主幹部に形成された
    指頭大のこぶ(矢印)

図1
図1

(左)写真3のような,指頭大のこぶが縦方向に連なって形成されます。
(中央)やがてそれらが裂開・癒合して・・・。
(右)写真2のような,縦に長いがんしゅとなるのです。

 「イヌエンジュがんしゅ細菌病」以外にも,北海道内ではイタヤカエデ,ヤマモミジ,ヤナギ類などの広葉樹に,細菌性と考えられる病害が発生しており,現在調査を進めています。また,九州地方で問題となっているカシ類の枝枯れ症状が,実は細菌性の病害であったことが昨年報告されました。
 今後も,続々と細菌性病害が見つかることが予想されます。これらの発生実態や発病のメカニズム,病原細菌の特定などの基礎研究が,これからの重要な研究課題となります。

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