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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.64
1997.09.25

減少し断片化する近畿地方のブナ林



ブナ林の分布状況
 近畿地方には氷ノ山,紀伊半島,琵琶湖周辺などにブナ林が分布していますが,その多くは都市に近接していたり,林業生産など長い森林利用の歴史があり,人為的な影響を強く受けています。図1は潜在自然植生図で分かるブナ林の分布が可能な地域と,現存植生図で分かるl980年頃のブナ林の分布を三次メッシュで示しています。この図ではブナ林が約10%に減少し,大部分のブナ林がすでに消失したこと,あるいは断片化していることが分かります。特に,大阪などの大都市周辺や氷ノ山周辺,京都府北部などの日本海側の山地では,ブナ林の断片化が著しく進みました。そして残ったブナ林の多くはスギやヒノキの植林地や二次林に隣接し,また,急峻で標高の高い地域にある山頂や尾根に偏って分布しています。

図1 潜在自然植生図、現存植生図上のブナ林
図1. 潜在自然植生図,現存植生図上のブナ林
■現存するブナ林 □潜在自然植生図上のブナ林

ブナ林の保全状況

 図2は,近畿地方にある70か所のブナ林の面積,立地する場所の最低標高,保全規制の関係を示しています。保全規制があるというのは,自然公園法などの自然環境の保全のための法律の指定地域であるということです。

図2 ブナ林の面積、最低標高、保全規制の関係
図2. ブナ林の面積,最低標高,保全規制の関係

 特別保護地区や自然環境保全地域など,保全が優先されるブナ林を「強い法規制」,普通地域などある程度の開発や土地利用が可能なものは「弱い法規制」としています。国有林の保護林や大学や自治体により自主的に保全されるものは「内部規制」,日本の重要な植物群落(環境庁)などのリストにブナ林の存在が掲載されるだけで保全規制の全くないものは,「リスト掲載のみ」としました。
 図2によれば,ブナ林の約40%には強い法規制がありますが,最低標高が比較的低い地域,つまり里山など居住地域に近いブナ林に保全規制のないものが多くなっています。
 また,比較的面積が大きく標高の高い場所にあるブナ林に比ベ,断片化が進むブナ林では保全規制が弱い傾向にあります。


ブナ林の特徴と今後の課題
 残存状況からブナ林を分類すると,一つには車道がなかったり標高が高く地形が急峻であるなど,利用しにくい立地にあるために残ったと考えられる奥山的要素の強いブナ林があります。もう一つは,防雪林や薪炭林となるなどブナ林と住民の生活が結び付いていたもの,寺社の森で禁伐とされたものなど地域社会と密接な関係があったために残ったと考えられる里山的要素が強いブナ林があります。
 奥山のブナ林の中には,近年に車道や施設が整備され,森林レクリエーションや観光の対象となるもの,周囲で人工林化が進むものが多くあり,事例として,御在所山(写真1),護摩壇山(写真2),大台ケ原(写真3)などがあげられます。

写真1 御在所山(滋賀県)
写真1. 御在所山(滋賀県)

写真2 護摩壇山(和歌山県)
写真2. 護摩壇山(和歌山県)

写真3 大台ヶ原(奈良県)
写真3. 大台ケ原(奈良県)

 里山ブナ林には,事例として,葛城山(写真4)のように都市近郊にあり小面積の神社の境内林で山頂に孤立して残るもの,丹後半島の上世屋・五十河地区(写真5)のようにかつての薪炭林であったものなどがあげられます。

写真4 葛城山(大阪府) 写真4. 葛城山(大阪府)

写真5 上世屋・五十河(京都府) 写真5. 上世屋・五十河(京都府)

 このようなブナ林を保全する上では多くの課題があり,とりわけ保全とレクリエーション利用のバランスをいかに保つか,人工林化などによる断片化の生態的な影響やその対策の解明,地域との結びつきが希薄化したブナ林の管理手法についての調査が急務であると考えられます。

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