ロゴFFPRI
発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.68
1998.10.30

樹木葉の環境適応


高い木の葉へのアプローチ

 背が高くたくさんの葉を持つ樹木では,1本の木の中でも,それぞれの葉の置かれている環境は異なっています。今まで困難だった,それらの光合成などの生理特性の研究が,近年,高い木の葉を直接さわることのできるタワーの設置(写真1)や,ポータブルで性能のよい測定機械が開発されたことから可能になりました。これにより,変化する生育環境下で,直接樹体についたままの状態で,1枚の葉レベルでのさまざまな解析が行われてきています。

写真1 成木測定用タワー(高さ約15m)

写真1. 成木測定用タワー(高さ約15m)

(場所:福島県いわき市勿来落葉広葉樹試験地)

 

空間的に変化する葉の特性

 光環境は,植物の光合成,すなわちその個体の成長に最も重要な環境要因です。そしてその光環境は,樹冠上部と下部(内部)で大きく異なります(図1)。その結果,同じ1本の木の中でも,個々の葉は,見た目にも小さく厚い(陽葉と呼ばれる)ものと大きく薄い(陰葉と呼ばれる)ものが見られ,光環境の変化に応じて連続的に変化します(写真2)。強い光をあてた時の,単位面積当たりの純光合成速度は,ブナの例では,陽葉と比べて陰葉で低くなります(図2)。

図1 樹冠下部と林床の相対光量の季節変化

図1. 樹冠下部と林床の相対光量の季節変化

(データは,勿来落葉広葉樹試験地,樹冠上部の光の強さに対する林冠下部:高さ約8m,林床:高さ約1mの光の強さの割合)

写真2 ブナの陰葉(左)と陽葉(右)

写真2. ブナの陰葉(左)と陽葉(右)

図2 ブナの陽葉(○)陰葉(●)の光の強さと純光合成速度の関係

図2. ブナの陽葉(○)陰葉(●)の光の強さと純光合成速度の関係

 

環境が突然変化したら

 植物の葉は,それらが置かれた光環境の違いによって,異なる特性を持ちます。では,その特性はいつ決められるのでしょうか。落葉広葉樹で,春先にすべての葉を一斉に開くブナは,前年の冬芽の置かれていた環境によって,その年に開く葉の特性がある程度決められていることが知られています。そこで,前年までと当年の光環境の影響を区別するために,葉が開く前に,樹冠表層部の陽葉の作られていた枝の1部にネットをかぶせ,被陰環境を人工的に作りました(写真3)。

写真3 樹冠被陰実験

写真3. 樹冠被陰実験

 写真4は,陽葉(a)と人工的に作られた<被陰葉>の横断面の顕微鏡写真です。被陰1年目葉(b:葉原基が全光下で作られ,展開は被陰下で行われた葉)は,柵状組織が2層のままで,被陰2年目葉(c:葉原基が被陰下で作られ,展開も被陰下で行われた葉)では,柵状組織が陰葉と同じ1層でした。陽葉と被陰葉の一定面積当たりの光合成能力の違いは,主に,葉の厚さの違いから生じ,それゆえ,乾燥重量当たりでは,ほとんど同じになることが分かりました。(図3)。

(a)写真a ブナの陽葉の切片

(b)写真b ブナの被陰1年目葉の切片

(c)写真c 被陰2年目葉の切片

写真4. ブナの陽葉(a),被陰1年目葉(b),被陰2年目葉(c)の切片

図3 ブナの葉の陽葉、被陰1年目葉、被陰2年目葉の単位面積当たりと単位乾重当たりの光合成能力

図3. ブナの葉の陽葉,被陰1年目葉,被陰2年目葉の単位面積当たり(a)と単位乾重当たり(b)の光合成能力(CO2濃度1500ppm,飽和光下)

 また,光の強度に対する葉の特性には,このように前年の影響を受けるものとは別に,葉が開く時の光環境により,窒素の分配,クロロフィルの含量と構成を調整し,現在の光環境を補償するメカニズムも備わっていることが分かりました。

 

環境への適応を明らかに

 環境の変化には,自己や隣接する個体の成長といった比較的ゆっくりとしたものや,枝や個体の枯死,倒木などの急なものがあります。その結果,葉は,これまでと異なる環境にさらされることになります。そこで,森林群落における,ある樹種のふるまいを明らかにするためには,その樹種のある時点の特性を調べるだけでなく,そのような環境の変化に対し,特性をどのように変化させられるのか −適応能力の幅(可塑性)− をどの程度持っているのかを明らかにしていくことが重要です。

企画・製作   森林環境部 お問い合わせはこちらまで・・・
森林総合研究所 企画調整部 研究情報科広報係
〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1
TEL 0298-73-3211
FAX 0298-74-3720
E-mail kouho@ffpri.affrc.go.jp

目次一覧