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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.69
1998.11.27

雄の性フェロモンと花の匂いで雌を誘う


 スギノアカネトラカミキリは,食害によりスギやヒノキの幹に変色や腐れを生じさせる害虫で,ほぼ日本全国に分布しています。その被害は著しい材質の低下を引き起こし,製材すると被害部が飛び飛びになって現れることから「トビクサレ」などの呼び名で古くから知られています(写真1)。近年,その被害の重大さが明らかとなり,対応策を求められていますが,スギ・ヒノキ林の多くは水源に近く,薬剤の使用は好ましくないため,新しい防除法の開発が急務となっています。

写真1 スギノアカネトラカミキリによる被害

写真1. スギノアカネトラカミキリによる被害

花の匂い

 スギノアカネトラカミキリの成虫は,雌雄とも,林縁部あるいは木漏れ日の当たる林内に咲くコゴメウツギ,ガマズミイワガラミ,ミズキ等13科48種に及ぶ木本類の,白ないし黄白色の小花に誘引され,花蜜や花粉を食べることが知られています(写真2)。そこで,スギノアカネトラカミキリの,花の匂い成分に対しての反応について調ベ,彼らを誘引する化合物を探しました。

 写真2 クリの花の花粉を食べるスギノアカネトラカミキリ

写真2. クリの花の花粉を食べるスギノアカネトラカミキリ

 その結果,ベンジルアセテートが最も強い誘引性を示すことが明らかになりました。さらに,ベンジルアセテート(図1)に化学構造が類似した11種の合成品を含めた化合物について,野外で誘引試験を行いました。その結果,メチルフェニルアセテート(図1)が強い誘引性を示し,かつ他種昆虫の混入が少ないことが分かりました(図2)。メチルフェニルアセテートを誘引源に用いたトラップは,現在市販されています。

図1 ベンジルアセテートとメチルフェニルアセテートの化学構造

図1. ベンジルアセテート(a)とメチルフェニルアセテート(b)の化学構造

図2 野外におけるスギノアカネトラカミキリの誘引試験の結果

図2. 野外におけるスギノアカネトラカミキリの誘引試験の結果

雄の性フェロモン

 スギノアカネトラカミキリは,雄成虫が性フェロモンを放出します。そこで,雄の放出する性フェロモンを吸着剤に捕集して,その捕集物をガスクロマトグラフィーで分析しました(図3)。同時に,この捕集物に対する雌の触角の電気生理学的反応を記録しました(図3)。その結果,ピーク(I)とピーク(II)に当たる化合物が,触角に反応を引き起こすことが分かりました。この二つのピークについて,さらに詳しい化学分析を行った結果,この二つの化合物は,(R)‐3‐ハイドロキシ‐2‐ヘキサノン(I)と(R)‐3‐ハイドロキシ‐2‐オクタノン(II)であることが分かりました。このようにして,スギノアカネトラカミキリの雄成虫由来の性フェロモンの化学構造が明らかになりました。

図3 スギノアカネトラカミキリ雄成虫の持つ揮発成分のガスクロマトグラフとそれに対する雌成虫の感覚電図

図3. スギノアカネトラカミキリ雄成虫の持つ揮発成分のガスクロマトグラフ(A)と,それに対する雌成虫の触覚電図(B)

雄の性フェロモンと花の匂いを組み合わせると?

 合成した雄性フェロモンに対するスギノアカネトラカミキリ雌成虫の反応は,ガ類の雄成虫が示す反応ほど顕著ではないので,合成した雄性フェロモン単独での利用は,それほど誘引効果があるとは予想できませんでした。そこで,先に紹介した,花の匂いをヒントに見つかったメチルフェニルアセテートと雄性フェロモンを組み合わせると,効果があるのではないかと考え,野外で,誘引トラップ(写真3)を用いて調べました。

写真3 林内に設置されたスギノアカネトラカミキリの誘引トラップ

写真3. 林内に設置されたスギノアカネトラカミキリの誘引トラップ

 その結果,合成した雄性フェロモンとメチルフェニルアセテートを誘引源として組み合わせると,誘引・捕獲される雌成虫数は,メチルフェニルアセテートのみを誘引源とした時の約2倍に増えました(図4)。この雄性フェロモンとメチルフェニルアセテートを組み合わせた誘引トラップは,現在スギノアカネトラカミキリの被害地で実証試験が行われています。

 図4 誘引源別の捕獲されたスギノアカネトラカミキリ成虫数

図4. 誘引源別の捕獲されたスギノアカネトラカミキリ成虫数

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