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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.70
1998.12.21
 

絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの保全

・ 種子の稔性低下…その原因と解決策 ・

1.ヤクタネゴヨウとは?

 ヤクタネゴヨウは,文字どおり屋久島と種子島だけに分布する日本固有の五葉松です。中国中央部に広く分布するカザンマツと,台湾の山地に分布するタカネゴヨウが分類学上の近縁種とされています。しかし,これらの近縁種とヤクタネゴヨウの間には遺伝的な違いがみられます。

ヤクタネゴヨウ  ヤクタネゴヨウと近縁種の分布

ヤクタネゴヨウと近縁2種の遺伝的な違いを示す系統関係

2.分布と残存個体数

 ヤクタネゴヨウは現在,屋久島では3か所の地域に合わせて約1000〜1500個体,種子島ではほとんどが孤立状態で,約100個体が残存していると推定されています。

ヤクタネゴヨウの分布と推定残存本数

 

3.なぜ,絶滅しそうなのか?

 ヤクタネゴヨウが絶滅の危機に陥った原因には,下のような因果関係が考えられます。このうち,特に孤立状態で残存しているヤクタネゴヨウでは,近親交配等による種子の稔性低下という問題があります。

   なぜ絶滅しそうなのか?

   写真:なぜ絶滅しそうなのか?

 

 

4.人工交配による種子稔性の回復

 マツ類では普通,一つの球果に40〜50個の種子ができますが,自家受粉が多いとシイナ(種皮だけが通常の種子の大きさ程度にまで発達するが,胚が形成されず中がカラなもの)の数が増え,種子の稔性(充実種子率)は低下します。

 一方,他家受粉が十分に行われた時には,充実種子率はマツ類では,通常70%以上に達します。アカマツ採種園の例では,平均充実種子率が約94%という報告(野口ら,1972)もあります。

 これに対し,ヤクタネゴヨウの充実種子率は,自然状態ではいずれも非常に低い値となっています(図:自然受粉球果の個体別充実種子率)。そこで,人工交配により,種子稔性がどれだけ回復できるかを調べました。その結果を下図(人工交配による種子稔性の回復)に示します。

自然受粉球果の個体別充実種子率  人工交配による種子稔性の回復

 母樹A〜Cは,孤立状態で生育している個体です。人工交配の結果,他家受粉による球果はいずれも自然受粉によるものと比較して高い充実種子率を示しました。このことから,自然状態で種子稔性が非常に低いのは,他家花粉が十分に受粉されていないためであることが分かりました。

 また,母樹Bでは自家受粉の人工交配も行いましたが,自家受粉後の充実種子率は自然受粉の充実種子率とほとんど一致しました。自然状態で得られた充実種子の多くは自家受粉に由来すると考えられます。

 なお,母樹Dは川沿いに10数mおきに5本の個体が生育しているもののうちの1個体ですが,母樹Dの人工交配結果も孤立木の母樹A〜Cと全く同様でした。これは,この程度の距離では,隣接木からの花粉が十分に届いていないことを示しています。

 

5.なぜ,保全する必要があるのか?

・遺伝資源としての価値・・・ヤクタネゴヨウは直径1〜2mの大径木にまで成長し,特に種子島では古くから沿岸の交通や漁業用の丸木舟の用材として利用されてきました。ヤクタネゴヨウの丸木舟は60〜70年の使用に耐えたといわれています。現在の私たちのとっても貴重な資源です。

 

・種の多様性の維持・・・ヤクタネゴヨウは日本にしか分布していない固有種です。絶滅したら地球上からすべて姿を消してしまいます。種の多様性が減少すれば,結局は私たち人間の生存基盤そのものが脅かされることになります。

 

6.保全策と今後の課題

・種子稔性の回復・・・マツのような風媒性の樹木は,集団としてまとまった本数がないと十分な受粉は行われません。すでにほとんどの個体が孤立状態になっている種子島では,自然状態では種子の生産は期待できず,現存個体を保存するだけでは,ヤクタネゴヨウを絶滅の危機から救うことはできません。これ以上枯損が進行しないうちになるべく多くの親個体のクローン苗を確保し,これを材料として互いに十分な花粉が受粉できるようなヤクタネゴヨウの林を造成すれば,そこで稔性の高い種子の生産が可能になります。このような人為的な管理を行わない限り,種子島のヤクタネゴヨウを守る道はないといえます。

 

・繁殖・更新実態などの解明・・・まだ孤立化が厳しくない屋久島の集団でも,種子の生産は十分ではなく,枯損による個体数の減少が進んでいます。枯損原因を究明するとともに,繁殖と天然更新の実態を明らかにすることがまず必要ですが,種子島と同様の人為的管理も,今後は考えていかなくてはならないでしょう。

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