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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.76
1999.07.30

樹木の渇きのシグナルを捕らえる

―水不足を知るための新たな取り組み―

キャビテーションとエンボリズム

 樹木を形作る組織のうち,幹や根,枝のほとんどは木部と呼ばれる組織でできています。特に,幹の木部は木材として利用されています。この木部には道管や仮道管という水を通す組織があり,根で吸収した水を葉まで運ぶパイプの役割を果たしています(図1)。

図1 樹木をめぐる水移動とキャビテーションの検出

 図1. 樹木をめぐる水移動とキャビテーションの検出

 

 パイプの中の水は,連続した柱となって繋がっています。

 蒸散によって葉の細胞から水が失われると,それを補うために水柱が引っ張り上げられます(図1)。ところが,水不足,つまり樹木にとっての渇きの程度が厳しくなると引き上げる力が大きくなります。その力がある限界を超えると,すでに空洞化している隣り合った道管や仮道管の壁孔膜の微細な孔を通って空気が水柱に引き込まれて空洞が形成され,水柱が途切れます。この現象をキャビテーション(空洞形成)と呼びます(図2)。その結果,道管や仮道管には空気が充満してエンボリズム(塞栓症)を起こし,水が通らなくなります。

図2 エンボリズムの形成メカニズム
図2. エンボリズムの形成メカニズム

 エンボリズムが木部の一部だけで生じている時は,水はその部位を迂回して上昇するので,樹木の成長が著しく低下したり,枯れたりすることはありません。ところが,多くの箇所でエンボリズムが起こると,樹木は枯れます。

 

キャビテーションを検出しよう

 キャビテーションが発生して水柱が途切れると,水柱にかかっていた引っ張りの力に相当するエネルギーの一部が弾性波となって放出されます。この現象をアコースティック・エミッション(AE)と呼びます。

 木部の中で発生したAE波は樹体内を伝播して幹の表面に取り付けたAEセンサで検出することができます。この方法を使うと樹木を破壊することなく,連続してキャビテーションをモニターすることができます(図1)。この方法は,地中で発生した地震を地表に設置したセンサで検出するのと同じ原理です。

 

マツ材線虫病にかかったマツに発生するキャビテーション

 わが国のマツ類に激しい枯損被害をもたらしているマツ材線虫病は,マツノザイセンチュウを病原とする典型的な萎凋病です。この病気にかかったマツのキャビテーションの発生を,先に示したアコースティック・エミッションを測定することで見てみます(図3)。センチュウ接種後の病気の進展前半で頻度は比較的低いもののキャビテーションの発生が見られ,後半になると非常に高い頻度で集中的にキャビテーションが発生します。その結果,マツの木部では広範囲にエンボリズムが起こります。

図3 マツ材線虫病の進展とキャビテーションの発生頻度

図3. マツ材線虫病の進展とキャビテーションの発生頻度

 

エンボリズムを診断しよう

 では,エンボリズムを起こした樹木の木部はどのようになっているのでしょうか。その状態はMRI(核磁気共鳴画像解析)装置で見ることができます。この装置は,人の脳ドックなどで使われている医療用機器です。これを使えば樹木の外から内部の様子が一目瞭然で分かります。

 マツ材線虫病にかかったマツでは木部全体に散らばった白い部分が見られます(図4)。これがエンボリズムを起こして水が通らなくなった部分です。病気の最終段階になると,マツの木部全体が白くなって水分の通導機能が失われ,急激に萎凋が進み枯死することが分かりました。

図4 MRI装置で検出したマツ木部のエンボリズム

4. MRI装置で検出したマツ木部のエンボリズム

 工学や医学分野で開発された機器を利用することで,樹木の生きざまの新たな側面を知ることができるようになりつつあります。今後も新たなチャレンジを続けていきます。

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