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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.80
2000.01.04

林木の遺伝子操作



 遺伝子操作技術は,もとの植物の望ましい形質を全て持たせたまま,目的とする一つの形質だけを変える手段です。この技術を利用すれば,従来の雄花と雌花をかけ合わせる交雑育種では不可能な他の生物種由来の遺伝形質をも導入することができます(図1)。これにより,人間が望む有用な新品種を正確にかつ容易に短期間で作出することが可能になりました。林木は永年生であり,生殖活動を開始するまでの期間が極めて長い特徴を持ちます。そのため,林木でも遺伝子操作による新品種の開発が期待されています。
 図1 交雑育種と遺伝子操作の比較

図1. 交雑育種と遺伝子操作の比較

 これまでに,セイヨウハコヤナギ,シラカンバ,ニセアカシア,ココノエギリ等の広葉樹の形質転換体作出技術を開発してきました。例えば,植物の形態形成を支配するホメオボックス遺伝子をセイヨウハコヤナギへ導入し過剰発現させると,葉の形態が変化したり,節間が短くなったり,矮化したりします(図2)。この結果は,遺伝子操作により林木の形質をダイナミックに改変できることを示しています。「スギ花粉症」や「松枯れ病」の対策にもこの技術の利用が考えられています。

 図2 遺伝子操作によるセイヨウハコヤナギ形質転換体の形態異常の誘導

図2. 遺伝子操作によるセイヨウハコヤナギ形質転換体の形態異常の誘導

A:コントロール,B,C,D:形態異常が誘導されたセイヨウハコヤナギ

 

スギ花粉症対策 ―遺伝子工学によるスギの雄花及びアレルゲン生産量の抑制―

 

 スギ花粉症患者の増加は日本の大きな社会問題の一つです。花粉発生源のスギ林の林齢構成を見ると,今後ますます花粉生産が増加すると見込まれます。将来のスギ林の育成には,これまでのスギの持つ優れた特性を変えずに,雄花生産やアレルゲン生産のみを抑えた品種が必要になります。現在,科学技術振興調整費「スギ花粉症克服に向けた総合研究」(図3)の中で,遺伝子工学によるスギの雄花及びアレルゲン生産量の抑制に関する研究を推進しています。

 図3 スギ花粉症克服に向けた総合研究

図3. スギ花粉症克服に向けた総合研究

 遺伝子操作によって形質を改良するためには,目的の形質を支配する遺伝子の選別及び効率の良い遺伝子導入技術や個体再生技術が必要です。導入遺伝子としては,ジベレリン生合成系の遺伝子,雄花の形態形成を支配する遺伝子やアレルゲン遺伝子が考えられます。スギから一部の遺伝子を単離し,それらの発現特性を調べました。また,効率の良いスギへの遺伝子導入技術も確立しました(図4)。さらに,多芽体を経由した個体再生にも成功しました(図5)。同時に,遺伝子操作に必須の不定胚を経由した個体再生技術の確立にも一部成功しました。現在,不定胚の誘導や個体再生の効率を高めるため,培養条件を検討しています。効率の良い個体再生技術が確立すると,遺伝子工学によるスギの雄花及びアレルゲン生産量の抑制が可能となります。

図4 種子胚へ導入したルシフェラーゼ遺伝子の発見

図4. 種子胚へ導入したルシフェラーゼ遺伝子の発現

図5 芽生え幼芽部分からの多芽体の形成 

図5. 芽生え幼芽部分からの多芽体の形成

  

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