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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.86
2000.08.28

アオモリトドマツの樹冠と球果生産

― 球果をつくる「指定席」 ―

種子を作る「指定席」

 環境の急激な変化などで種子を作っている木が枯れたり弱ったりした場合,種子の供給や将来の森林の更新に影響が出ると考えられます。天然更新の可能性を予測する上で,また,場合によっては森林の人為的な管理を行う上で,個々の樹木が作る種子の数を推定する方法が重要になってきます。

 普通,健全で樹冠が大きな樹木は,多数の種子を作ることができます。その一方で,樹木の中には,種子を樹冠の「指定席」のみで作るものがあります。こうした樹種では,「指定席」となる枝が損傷を受けることで,種子の生産が極端に低下することがあります。

写真1 ブナと混交林を形成している八甲田山のアオモリトドマツ 

写真1. ブナと混交林を形成している八甲田山のアオモリトドマツ

 アオモリトドマツは,本州の北部から中部にかけて生育するモミの仲間で,亜高山帯の景観を形作る常緑針葉樹です(写真1)。アオモリトドマツは,「指定席」のみで球果(マツボックリ)をつけて種子を作る樹種の一つです(写真2)。「指定席」の状態は球果の生産に大きな影響を及ぼすと予想されます。

写真2 アオモリトドマツの球果

写真2. アオモリトドマツの球果

 最近本州北部のアオモリトドマツ林では,八幡平地域や蔵王山地域などで,これまでに指摘されたことのないタイプの立ち枯れ現象が報告されています。このため,今後の天然更新の可能性を判断する上で,種子生産に関する情報が必要になってきています。

球果は枝の上面で育つ

 球果は前の年から作られ始めます。夏に伸びた枝の上面に雌花芽ができますが,その翌年の初夏に「雌花」が開花します(写真3)。受粉が終わると球果は体積・重量ともに大きくなり(写真4),開花した年の秋には種子が飛び散ります(写真5)。なお,雄花は球果よりも低い位置にある枝の下面で作られます。

写真3 アオモリトドマツの雌花

写真4 受粉後、成長途上にある球果

写真5 種子が飛び散った後の球果

写真3. アオモリトドマツの雌花

写真4. 受粉後,成長途上にある球果

写真5. 種子が飛び散った後の球果

 

球果は樹冠のどこで作られるか?

 球果は樹冠のどの部分で作られるのでしょうか? クリスマスツリーのような無傷の個体でも(写真6,図1a),強風のもとで旗のように変形した個体でも(写真7,図1b),球果の多くは樹冠の上部で作られます。特に,先端から数えて15番目ぐらいまでの枝で多くの球果が作られます。

 樹冠の上部が球果を作る「指定席」なのです。

写真6 樹冠に損傷がない個体
図1 地上高ごとにみた球果
写真6. 樹冠に損傷がない個体
写真7 風で樹冠が変形した個体

写真7. 風で樹冠が変形した個体

図1. 地上高ごとにみた球果数の分布
 

大きな枝はたくさんの球果を作るか?

 樹冠の上部では,枝の大きさは球果の数に影響を与えるのでしょうか?

 アオモリトドマツの球果数は年変動が大きいので,枝の太さ(直径)と8年間に作られた数の合計との関係について調べました(図2)。枝が太くなると,その枝で作られる球果の数は増加します(図3)。また個体1のように10年経った部分で2cm以上の太さの枝を持つ個体は1本の枝で多数の球果を作ることができます。

図2 枝の太さと球果数の計測部位

図2. 枝の太さと球果数の計測部位

図3 枝の太さと球果数との関係

図3. 枝の太さと球果数との関係

 一般に,太い枝はたくさんの針葉をつけています。1年に1本の大枝が作る球果の数は,多いもので7〜12個に達します。樹冠の上部に太い枝が多いと,球果を多数作ると考えられます。

樹冠の上部が遭う災難

 個体としての生存には決定的な影響がなくても樹冠の上部だけが損傷を受けたり弱ったりすることがあります。例えば冠雪の重みによる幹折れ(写真8),風の強い場所での部分的な枯死(写真9),針葉を食べられたことによる当年枝の衰弱(写真10)などです。

写真8 冠雪の重みで幹が折れた個体

写真9 風による幹・枝の部分的な枯死

写真10 食葉性昆虫による当年枝の衰弱

写真8. 冠雪の重みで幹が折れた個体

写真9. 風による幹・枝の部分的な枯死

写真10. 食葉性昆虫による当年枝の衰弱

 樹冠の上部は様々な災難に遭う部分でもあります。

「指定席」をどう確保するか?

 クリスマスツリーのような形をした樹冠では,樹冠の上部を中心に球果が作られます(図4a)。樹冠の上部がなくなった場合でも,それまでよりも下の部分で球果を作ることはありません(図4b)。上の部分がなくなって何年か経った後,新しく作られた樹冠の上部で球果を作るようになります(図4c)。

 損傷して「指定席」がなくなると,再生した新たな樹冠の上部で「席」が作られます。

図4 樹冠の損傷・再生に伴う球果が作られる位置の変化

図4. 樹冠の損傷・再生に伴う球果が作られる位置の変化 

種子の数を見積もるには

 これまで,1本の樹木が作る種子の数を推定する際には,樹冠の大きさや物質生産量が重視されました。そして,これらを反映する値として,胸高(地上高1.3 m付近)での幹の直径が計測されました。この値は,種子を作る枝が樹冠に広く分散する樹種では参考になると考えられます。

 しかし,種子が「指定席」で作られる樹種では,胸高での幹の直径は種子を作る枝の数や太さを必ずしも反映しません。むしろ,「指定席」となる枝の数や状態を直接把握することが種子の数を推定するのに有効と考えられます。

 現場で個々の枝を調べることは大変な作業ですが,樹木当たりの球果の数を推定する簡便法はあります。それは,(1)先端から15番目ぐらいまでの大枝について,大枝の総数が30〜50本あるか?(2)それぞれの大枝には針葉が密に生えているか? を確認することです。樹高10m以上のアオモリトドマツでは,豊作年において200〜500個程度の球果を作っていれば健全な状態といえます。

 それぞれの樹種が樹冠のどの部分で種子を生産するかを把握し,樹冠の状態を把握することが,将来の天然更新の可能性を予測する上でも重要なのです。

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