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発行:農林水産省林野庁
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル No.88
2000.10.31

成熟した森が水を育む

−水保全のために好ましい人工林施業の指標作りをめざして−

森林の成長と水循環

 森林に降った雨は,蒸発して大気に戻る成分(蒸発散量)と河川水や地下水として流出する成分,及び土壌水分などとして一時的に貯えられる成分とに分かれます(図1)。森林は成長(林齢)とともに葉の量や樹高などが変化するので,それに応じて蒸発散量が異なり,河川水や地下水となる水量も変わります。従って,森林流域で水保全を考える場合には,森林の成長段階に応じた管理・施業方法が重要になってきます。ここでは,林齢と蒸発散量との関係を典型的なスギとヒノキの人工林を対象に調べてみました。

図1 森林流域に降った雨水の分配

図1.森林流域に降った雨水の分配

幼齢林と壮齢林での蒸発散量の測定

 まず,壮齢林(林齢62〜66年)とその伐採跡地に植栽された幼齢林(林齢4〜9年)とで蒸発散量を測定して,林齢の違いによる影響を調べてみました。蒸発散量は流域内の雨量と流域河川からの流出量(写真1)とを測定し,年間の両者の差から求めました。この流域では地下水浸透は少なく,しかも渇水期を起点(1月1日)・終点(12月31日)とするためこの間の貯留水分の変化量は雨量や流出量と比べて小さく無視しうるので,結局,雨量と流出量との差が蒸発散量となります。測定の結果,幼齢林では森林の成長に伴って年々蒸発散量が増加するのに対し,壮齢林では林齢依存性は特に見られないことが分かりました(図2)。ところで,幼齢林では林齢9年ですでに蒸発散量が壮齢林の値を上回っています。幼齢林の樹冠は林齢15年前後で閉鎖すると考えられ,それまでは旺盛な成長が続くはずですから,蒸発散量は今後最大値に達した後,壮齢林の値までに減少することが予想されます。では,このような蒸発散量の林齢依存性は何に起因しているのでしょうか。

 

写真1 量水堰による流出量測定

写真1.量水堰による流出量測定

場所:茨城県常陸太田試験地,ヒノキ・スギ混交林

図2 林齢と蒸発散量の測定値

図2.林齢と蒸発散量の測定値

○:測定値(雨量と流出量の差)

葉の量が蒸発散量を支配する

 これまでの研究から,葉の量が蒸発散量に大きく影響するといわれています。そこで,林齢と葉の量との関係を調べてみることにしました。葉の量を数値で表現するものとして葉面積指数LAIがあります。LAIは林地の単位面積上(例えば1ha)に存在する葉の総面積(片面のみ)が単位面積の何倍(何ha)になるかを表す量です。図3にLAIと林齢との関係をスギとヒノキの人工林(林齢10〜約300年)について測定した結果を示します。LAIは10〜20年から次第に減少する傾向が見られます。このことと,林齢がゼロに近づくとLAIもゼロに近づくことから,LAIは10〜20年でピークを持つことが予想されます。

 そこで,今度はLAI(図3)に基づいて蒸発散量を計算してみました。ここで用いた計算方法にはLAIと気象要素(雨量,温湿度,風速,日射など)とを取り込んでありますが,気象要素は一定(平年値)として蒸発散量を算出しました。その結果,図4に示すように蒸発散量は林齢の変化に対応して10〜20年で最大になった後,林齢とともに緩やかに減少する傾向を示しました。

図3 林齢と葉面積指数LAIの関係

図3.林齢と葉面積指数LAIの関係

●:スギ,▲:ヒノキ

図4 林齢と蒸発散量の関係

図4.林齢と蒸発散量の関係

○:測定値(図2の再プロット)
●,▲:図3のスギ,ヒノキのLAIをもとにした計算値,計算値の気象条件は一定(平年値)と仮定した

おわりに

 蒸発散量は若い林で最大になり,その後は林齢とともに減少するので,河川流量は高齢林分ほど増加することが期待されます。しかし,蒸発散量(LAI)を減らす目的で過度の伐採を行うと,崩壊,浸食,保水力の低下,洪水などが起こる危険性があり注意が必要です。今後,LAIと枝葉の付き方,立木密度,直径や樹高などとの関係についての解析を進め,蒸発散量の実測データを蓄積して森林と河川とのかかわりを明らかにし,森林の成長段階に応じた管理技術の指標作りを行っていきます。

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