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森林総合研究所
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第96号
平成13年7月31日発行
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二酸化炭素を封じ込める森林土壌のはたらき

 化石燃料の大量消費や森林の消失などで大気中の二酸化炭素濃度が上昇し,地球温暖化が進むことが心配されています。ところで,地球上の陸上生態系は大気中の約3倍に相当する2兆1,900億トンの炭素を貯えており,このうち6,100億トンが森林などの植生中に存在していますが,全体の70%強に相当する残りの1兆5,800億トンは土壌中に貯えられているといわれます。このように土壌は二酸化炭素の巨大な貯蔵庫の役割を果たしていると考えられていますが,我が国の森林はどれくらいの量の炭素を土壌中に貯えているのでしょうか。


日本の森林にはどんな種類の土壌があって,どれくらいの炭素を貯えている?

 南北に長く,山地の面積が広く,しかもこれに加えて火山も多い我が国では,それぞれの自然環境ごとに違った種類の森林土壌が分布しています(図1)。最も広く見られるのは「褐色森林土」と呼ばれるその名のとおり褐色の土壌で,我が国の森林の70%以上がこの土壌で覆われています。その次に面積が大きいのは,火山灰を材料にしてできた「黒色土」で,火山の山麓などに広く分布しています。このほかにも,新鮮な火山からの放出物など土壌としてはまだ若い未熟土や,土層の上の部分が漂白されて白くなった高山に特有のポドゾル,南西諸島などで見られる赤色や黄色をした「赤黄色土」,低地のグライや泥炭土など,さまざまな土壌が日本の森林には分布しています。そして,図2にいくつかの土壌について例を示したように,これらの土壌ではその中に含まれる炭素の含有率(%)もそれぞれ異なっています。「黒色土」では火山灰の中に含まれる多量のアルミニウムなどの影響で有機物が安定化するために,炭素含有率が他の土壌よりも明らかに高いことが分かります。「黒色土」という名前は,炭のように真っ黒なこの有機物のおかげに他なりません。一方,「赤黄色土」や「未熟土」などの炭素含有率は他に比べてずっと低く,また「ポドゾル」では表層と下層にだけ炭素が分布しています。一方,我が国の最も代表的な森林土壌である「褐色森林土」の炭素含有率は「黒色土」と「赤黄色土」のちょうど中ほどですが,同じ褐色森林土でも尾根や斜面上部に分布する「乾性褐色森林土」より斜面の中〜下部の「適潤性褐色森林土」や「弱湿性褐色森林土」のほうが表層土壌の炭素含有率が高い傾向にあります。

図1. 多様な我が国の森林土壌
図1. 多様な我が国の森林土壌
図2. さまざまな森林土壌中の炭素含有率(%)
図2. さまざまな森林土壌中の炭素含有率(%)

 このような炭素含有率の傾向を土壌の種類毎の炭素の貯留量として明らかにするため,過去に日本全国で調べられた810の土壌断面の深さごとの炭素含有率や密度などのデータを整理して解析した結果,深さ100cmまでのha当たりの炭素貯留量は「乾性褐色森林土」と「適潤性褐色森林土」で約200トン,「弱湿性褐色森林土」ではやや多い250トンほどであるのに対し,「黒色土」では300トン以上にも達することが明らかになりました(図3)。これらの炭素貯留量は世界の森林の土壌と比べてみても大きく,我が国の森林土壌は炭素を貯える上で優れた能力を備えているといえます。恐らく我が国の多くの森林土壌が多かれ少なかれ火山灰の影響を受けていることなどがその原因でしょう。

図3. 炭素量からみた我が国の森林土壌と世界の土壌の比較
図3. 炭素量からみた我が国の森林土壌と世界の土壌の比較

 土壌の種類毎に貯えられている炭素の量が分かれば,どこにどのような土壌が分布しているかを図示した土壌図と組み合わせることで,土壌炭素の分布図を描くことができます。図4は北海道の例ですが,地域によって土壌中に貯えられている炭素の量が大きく異なるのがはっきりと見て取れます。

図4. 土壌炭素の分布図 −北海道の例−
図4. 土壌炭素の分布図 −北海道の例−

森林土壌中に貯えられた炭素は日本全国でどれくらい?

 次に,上の数字をもとにしていくつかの仮定をおきながら,日本全国の森林土壌中に貯えられているおおよその炭素量を試算してみると,その量は54億トンにもなります。我が国の森林の樹木中に貯えられている炭素が約11億トンほどですから,我が国の森林の土壌中には,実に樹木中の約5倍もの炭素が貯まっている勘定になります。我が国で1年間に排出される二酸化炭素は炭素として約3億2,000万トンほどですから,その16年分以上の排出量に(図5),あるいは,全世界で一年間に化石燃料消費で排出される二酸化炭素の量にほぼ匹敵します。森林の土壌は樹木の生育を支えているだけでなく,このように,膨大な量の二酸化炭素を貯留することで環境保全に貢献しているのです。

図5. 我が国の森林土壌中に貯えられる炭素量の試算
図5. 我が国の森林土壌中に貯えられる炭素量の試算


 現在,立地環境研究領域では,土壌中に貯えられている炭素の分布や量をもっと正確に知り,また,森林の伐採や造林,温暖化などでその量がどう変化するを知るための研究をさらに進めているところです。

企画・制作:立地環境研究領域 研究の“森”から No.96 平成13年7月31日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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