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森林総合研究所
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第97号
平成13年9月30日発行
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ニホンカモシカの動きを追う
− 子はどのように独立するか −


森の動物の動きを知る

 森にはいろいろな哺乳類が生活しています。彼らは森の中をどのように動いているのでしょう。彼らの動きを知ることができれば,生活のいろいろな場面でどのような環境を利用しているのか,例えばどんな場所で食物をとり,どんな場所で眠るのかというようなことを知ることができます。また仲間同士の行動からは彼らの社会生活の仕組みを推察することもできます。しかし,ニホンカモシカ(以下文中はカモシカ)に限らず森に住む哺乳類は,人間が彼らを発見するより先に,こちらを察知して逃げてしまいます。山地が多く下層植生も豊富な日本の森林では,動物個体を発見することさえ大変難しく,彼らの動きを直接追跡するのは不可能といってもよいでしょう。そこで,彼らの動きを追うための効果的な方法が必要になります。


ラジオ・テレメトリー法

 最近の野生動物の調査では,動物個体に小型の電波発信器を取り付け,その電波を頼りに動物の位置を推定する方法が広く採用され,ラジオ・テレメトリー法(またはラジオ・トラッキング法)と呼ばれています。なかでも最も簡便で通常行われているのは次のようなものです。
 地図上の位置が分かっている複数の場所から,ポータブル・トランシーバと携帯用のアンテナを用いて電波の方向を探り(これを「方探」と呼びます),方位磁石(コンパス)でその方位角を測り,地図上に作図して動物の位置を求めます(この一連の作業は「ロケーション」と呼ばれます)。3か所以上の方探地点から同時に方探を行うのが理想的です。よい精度で方探されていれば,地図上の3か所の方探地点から引いた3本の直線が交叉して三角形ができますから,その重心を動物の推定位置点とします。ロケーションで得られた位置点の集合から行動圏(ホームレンジ)が明らかになり,行動圏内の場所ごと,時期ごとの利用の様子から地形や植生等との関係を解析したり,複数の個体間の関係を推察したりすることができます。

写真1 発信器付き首輪をつけたカモシカ

写真1. 発信器付き首輪をつけたカモシカ


西蔵王でのテレメトリー調査

 山形市の西蔵王地区(滝山地区)は,市の中心から東南東に3〜7km,有名な蔵王温泉の西側に位置する瀧山(りゅうざん)(1,362m)の北西斜面です。中央部は台地状で,落葉広葉樹林,スギ植林地,耕地と集落,放牧場が混在しています。北側と西側は山形市の市街地に接していて,ほぼ南北に有料道路(西蔵王高原ライン)が走っています。ここで,1992〜1999年の8年間,カモシカのテレメトリー調査を行い,総数で22個体,ある個体では6年間もの長期ににわたって行動を追跡しました。

子カモシカの独立の過程

 興味深い結果の一つは,おとなのカモシカが極めて安定した行動圏を持っているのに対して,こどものカモシカが独立していく過程,つまり出生地(母親の行動圏)からいつどのように離れていくかが明らかになり,特にオスの子とメスの子の違いも明らかになったことです。

図1 子カモシカと母親との行動圏の中心間の距離の変化

図1. 子カモシカと母親との行動圏の中心間の距離の変化

 1歳前の子カモシカ3個体(オス2,メス1)を,その母親と同時に追跡しました。図1はこれらの子カモシカたちとその母親の行動圏の中心の間の距離の変化を示しています。オス(No.6,No.16)では1歳の後半から満2歳になるまでに急激に母親から離れていったことが分かります。これを年間行動圏の変化で示したのが図2です。No.16では3歳になる頃には2.5kmも離れています。これに対して,メスの子(No.15)と母親との距離は,やはり1歳過ぎから遠くはなりますが,せいぜい500mどまりでした。この様子を示したのが図3です。親子それぞれの位置点が100mのグリッド(格子)にどれくらい入ったかを示しています。No.15が満1歳になった1993年夏には,親子の行動圏は重なっていますが,翌年の秋になると,No.15は母親のすぐとなりの場所を自分の行動圏として独立していることが分かります。

図2 オスの子カモシカとその母親の年間行動圏

図2. オスの子カモシカとその母親の年間行動圏

図3 メスの子と母親の行動圏の変化

図3. メスの子(No.15)と母親(No.5)の行動圏の変化(100mグリッドによる)


 子カモシカの独立の過程とそのオス・メスによる違いが,実際の追跡結果として示されたのは初めてのことです。

企画・制作:野生動物研究領域 研究の“森”から No.97 平成13年9月30日発行
編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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