ISSN 1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第118号
平成15年11月30日発行
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−北海道・石狩平野でのオオタカの繁殖生態−

なぜオオタカの研究が必要なのか?
  オオタカはワシタカ類に属する肉食性の鳥です(写真1)。大きさはカラスほどで、日本全国に分布しています。上空を旋回するオオタカの姿は美しく、里山を代表する猛禽として、さらには「鷹狩り」のタカとして、古くから人々に親しまれてきました。
  わが国には数百から数千羽のオオタカが生息していると考えられています。しかし、この数は近年、徐々に減少しているようです。この原因は、オオタカの生息地である里山が開発されたり、手入れされずに放置され、生息環境が悪化していることによると考えられています。このため「絶滅のおそれがある野生動植物の種の保存に関する法律」では「国内希少種」に、「日本版レッドデータブック」では「絶滅危惧U類(絶滅の危険が増大している種)」に指定されています。また、「新・生物多様性国家戦略」では、里山の再生や保全とともにオオタカなどの猛禽類の保護が主要なテーマとなっています。オオタカを調べることは、オオタカが住める環境づくり、すなわち里山の再生と保全の方法を明らかにすることに通じています。
写真1 オオタカ雌成鳥
写真1.オオタカ雌成鳥
オオタカについてよくわかっていないこと
  オオタカの雌の体重は900-1200gであるのに対し、雄の体重はその半分ほどの500-700gしかありません。この雌雄はつがいとなって毎年繁殖を行いますが、どのくらいの密度で営巣し、どれくらいの面積を行動圏として利用し、いつ繁殖するのか、そして何を餌としているのかなど、その繁殖生態についてはよくわかってはいません。これらを調べるためには、里山の生息環境が広く残され、多数のつがいが繁殖している地域で調査を行う必要があります。北海道・石狩平野は、札幌市をひかえ近年都市化が進みつつありますが、それでもまだ里山が広く残され、多数のオオタカが生息していることが知られています。調査地としてこれほど適した地域はありません。

営巣地の探索
  北海道・石狩平野に1,600km2の広大な調査地を設定し(図1)、オオタカの営巣地をくまなく探しました。その結果、36ヶ所の営巣地が確認できました(図2)。営巣地は、孤立林と農耕地がモザイク状に配置された里山地帯にあり、市街地にはありません。営巣木のほとんどは針葉樹の大木で、巣は高さ10mのところにありました。この地域の巣の密度はかなり高いといえますが、それでも100km2あたりに換算するとわずか2巣にすぎません。

行動圏の推定
  営巣したつがいのうち、雄18個体を捕獲し、小型の電波発信器をつけ、行動圏の面積を調べました。繁殖に必要な餌の大半を雄が狩るため、雄の行動圏は繁殖に必要な環境の面積を示すと考えられるからです。電波を追って広い地域を毎日走り回りながら、雄がどこにいたのか確認し、そこでなにをしていたのかを記録していきます。図2はその行動圏の分布で、確認した地点の最外郭を囲ったものです。雄は互いに住み分けながら、約12km2の行動圏をもっていることがわかりました。図にすると簡単ですが、たくさんの確認点を得るための時間と労力ははかりしれません。調査期間中の車の走行距離は10万kmを越えてしまいました。
図1 北海道・石狩平野に設定した調査地    図2 調査地のオオタカの営巣地と行動圏の分布
小型ビデオカメラによる巣の撮影
  観察に適した4個の巣を対象に、ボールペンを5本束ねたくらいの大きさの小型ビデオカメラを設置して、繁殖の様子を連続撮影しました(写真2)。繁殖は3月の求愛・巣造りにはじまり、抱卵、巣内での子育て、巣の外での子育てを経て、若鳥が生まれた巣から数十km以上遠くに飛んでいって戻らなくなる9月中旬に終わります。北海道では、本州より2週間以上遅く繁殖が始まるようです。また、海外の研究では、求愛・造巣期、抱卵期、そして巣内育雛初期に営巣地の周辺に人間が近づくとオオタカは繁殖を放棄することが報告されていますが、北海道ではこの時期が3月初旬から6月中旬にあたるといえます。このビデオ映像からは同時に、オオタカたちが何を食べているかをつぶさに知ることができました。主な餌はアオジ、シメ、ムクドリ、キジバトなど、里山の代表的な鳥類でした(図3)。



写真2 小型ビデオカメラで撮影したすの上の雌と卵
写真2.小型ビデオカメラで撮影した巣の上の雌と卵
図3 繁殖期に巣に運ばれた餌の構成
図3.繁殖期に巣に運ばれた餌の構成

研究からわかったこと
  オオタカは、市街地ではなく、農耕地と森林がモザイク状に分布する地域に営巣し、その密度はとても低いこと、そして里山の代表的な鳥類を主要な餌としていることがわかりました。これらのことは、繁殖のために必要な餌となる動物が生息する森林や農耕地などからなる、広い狩場が必要であることを示しています。こうした狩場が市街地化するとオオタカは営巣できなくなると予測されます。
  今後、営巣地や狩場を含む生息地の特性を多様な環境の組み合わせ(ランドスケープ)の視点から解明し、北海道における潜在的な生息地の面積や営巣地数を推定する予定です。
<実行課題>アア1cアンブレラ種であるオオタカを用いた生物多様性モニタリング手法の開発
工藤琢磨(北海道支所・森林生物研究グループ)
尾崎研一(北海道支所・生物多様性研究チーム)
鷹尾元(北海道支所・北方林管理研究グループ)

研究の森から第118号平成15年11月30日発行
編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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