ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第121号
平成16年2月27日発行
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伝統の技術で湖や里山がよみがえる

市民活動が縦割りを無くす
  私たちの身の回りの自然環境の質を上げるためには、これまでのように国や自治体に全て頼ることができません。たとえば、霞ヶ浦の広い流域の水質を良くし、水辺の植生や生き物たちや、美しい風景を取り戻すためには、湖だけでなく、そのまわりの農地、屋敷林、里山、水路や河川、それから都市など様々な空間が果たしている役割を、うまくつないでいくことが大切だからです。
  最近では、その「つなぎ」の役割を、NPOなどの市民活動が担うことが多くなってきました。霞ヶ浦流域ではNPO法人アサザ基金が中心となって、流域の広域な環境保全をアサザプロジェクトと呼ばれる取り組みで行っています。アサザプロジェクトでは、NPO、国土交通省など行政、研究機関、学校、民間企業、農林水産業関係者、市民が、流域レベルの自然環境保全とその活用に協働で取り組んでいます(図1)。その中で、市民活動と私たちが協力している、里山資源の新しい利用と管理について紹介します。


図1 アサザプロジェクトにおけるコラボレーション
図1:アサザプロジェクトにおけるコラボレーション
   〔グリーンモアvol.19〕

写真1 マツ材の枠に粗朶を詰めて消波施設を作る
写真1:マツ材の枠に粗朶を詰めて消波施設を作る


伝統技術を見直そう
  霞ヶ浦の湖岸は、ほぼ全域に渡ってコンクリートの護岸で覆われました。でも、コンクリートでは、湖岸から打ち返される波が強くなり、水辺の植物は再生できなくなりました。そこで、アサザプロジェクトでは伝統的な工法である粗朶(そだ)消波施設を採用することとしました。粗朶消波施設とは、スギ間伐材やマツ材を使った枠の中に、雑木林のクヌギ・コナラなどの枝(粗朶)を入れ、湖に配置したものです。粗朶消波施設は、粗朶を通して水が行き来するので、波の打ち返しをやわらげ、さらに魚やエビのすみかや産卵場所として水産資源を豊かにします。最終的には水生植物や砂浜が安定したときに、粗朶消波施設自身が自然消滅していきます。つまり役割を終えると、風景の中に溶け込んでいくのです(写真1)。
  そして、雑木林のクヌギ・コナラなどから粗朶を生産することで、放置されてゴミの不法投棄場所になったり、藪になったりしている雑木林に、新しい価値を見つけて再生することができます。

よみがえる里山の風景
  霞ヶ浦の粗朶消波施設には、1998年から2001年までの4年間で総延長8,600m、粗朶としては約27万束、28,000m3の枝条が使用されました。これは、百数十haの里山資源の活用につながると換算されますが、実際には流域外からの粗朶持ち込みもあったため、霞ヶ浦流域内では60〜80haの里山資源が活用されました(図2、表1)。粗朶を得るための里山の資源活用の方法は、3つのタイプに分けられます。


表1:粗朶の使用量
表1 粗朶の使用量
図2 粗朶消波施設及び粗朶採種里山
図2:粗朶消波施設および粗朶採取里山

写真2 ボランティアで密生したササを刈り取り
写真2:ボランティアで密生した
ササを刈り取り

写真3 里山の風景がよみがえった
写真3:里山の風景がよみがえった
       
  @粗朶組合の単独事業では、里山1haからおよそ2,000〜3,000束(200〜300m3)が生産されます。まず林床をおおうアズマネザサの刈り払いを行い、上木は皆伐あるいは択伐施業を行います。皆伐の場合、粗朶生産だけを考慮するなら最短5〜7年で循環できます。

  A粗朶組合ときのこ生産業者が共同で行う場合、刈り払い後、15〜20年周期で皆伐し、萌芽更新を行います。きのこ生産業者がしいたけなどの原木の採取を行い、原木にならない小径のものを粗朶に利用します。当地域のきのこ生産業者は、これまで流域外から原木を購入してきましたが、協働で原木を生産することにより、約150万円/haのきのこ原木が生産でき、経済効率は高いと言えます。
 
  B粗朶組合と「一日きこり」と呼ぶ里山ボランティアが協働で行う場合、作業効率は低いですが、ボランティア活動により、市民に里山資源活用の大切さ、自然の中での活動の気持ちよさ、人との交流の楽しさなどが体感できます(写真2)。

  これらの里山の大半は、何十年間も手入れされずに放置されていた森でした。特に関東地方では、放置されると、アズマネザサが旺盛に生育し、高さ4mにも伸びて、人が踏み入れられないほど密生します。このような森は、人が利用できないだけでなく、他の生き物たちも住めず、風景も見苦しいものになっています。粗朶を生産するなど、新たな里山資源の活用により、歩きやすい森になり、森の中に陽が差し込み、野草も増え、風景が良くなっていきます(写真3)。
  こうした里山資源の新たな活用と森の持つ様々な機能の向上は、表裏一体の関係にあり、市民活動や研究の重要性はますます高まっています。
<実行課題>

  キイ1a:地域伝統文化の構造解明

  香川隆英(企画調整部上席研究官)
  研究の森からNo.121号 平成16年2月27日発行
    編集発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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