ISSN  1348-9798
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独立行政法人
森林総合研究所
研究の“森”から タイトル 研森イメージ
第122号
平成16年3月31日発行
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緑化で防ぐ風衝荒廃

北上山地の天狗の土俵
  北上山地の稜線部付近には、地表面に石礫が露出した特殊な荒廃裸地が多く見られ、風衝荒廃地と呼ばれています(写真1、3)。風衝荒廃地は、表土の流亡などの被害をもたらし、問題となっています。北上山地の森林は、古くから牛馬の放牧や炭焼きのために奥深くまで伐採され、利用されてきました。これらの地域は、冬季間は寒冷、強風、少雪の厳しい気候にさらされます。風衝荒廃地はこのような北上山地の標高800mから1,100m付近の西向き斜面の草生地に多く分布し、冬季の強い季節風によって積雪が吹き飛ばされ、土壌が深くまで凍結し、凍上(土が凍り、地面が隆起する現象)が発生する場所に見られます。
  荒廃裸地が発生する重要な誘因のひとつとして、アキヤマタケ菌輪病という野芝の病害があります。この病気は、菌糸の蔓延に伴って野芝を枯らし、リング状に直径数メートルの裸地を形成させることが知られています。このような円形の裸地は地元では「かぬか輪」と呼ばれ、その形から天狗が相撲を取った土俵の跡だろうとの言い伝えがあります。


写真1 北上山地の稜線部に広がる風衝荒廃地
写真1.北上山地の稜線部に広がる風衝荒廃地
  気候の厳しい北上山地の高海抜地帯では、ひとたび裸地が発生すると、凍上と融解によってやわらかくなった表土が強風と雨によって侵食されるために植生が回復せず、数ヘクタールにも及ぶ荒廃裸地へと拡大することがあります。

図1 試験地の位置
図1.試験地の位置
風衝荒廃地の緑化試験
  北上山地稜線部の非常に厳しい気候の下では、発生した風衝荒廃地は放置すると拡大し、自然復旧は困難です。そこで、風衝荒廃地に、地域在来の草木の種子と緑化用の外来牧草の種子とを混播し、緑化試験を行いました。緑化試験地は岩手県の早坂高原(標高1,070m)にある風衝荒廃地の中央部(図1)に設定し、山腹緑化工の施工方法のひとつである「むしろ伏せ工」(緑化用のむしろで地表面を固定する工法)を用いて緑化を行いました。緑化作業によって地表面を保護し、地表面付近の厳しい微気候環境を緩和することができれば、緑化試験区における植生の維持とその後の自然復旧が期待できるものと考えました。
  
写真2 緑化試験区の地表面
写真2.緑化試験区の地表面
(植生に覆われ、地表面が保全されている)
   写真3 緑化作業をしなかった対照区の地表面
写真3.緑化作業をしなかった対照区の地表面
(荒廃裸地が現在も拡大している)


  緑化施工後6年目の現在、緑化試験区の地表面(写真2)は植生に覆われて安定し、地域在来の草木の自然侵入も散見されます。一方、緑化を行わなかった対照区(写真3)では、現在も砂礫が露出し、裸地の拡大が続いています。


緑の布団が凍上を抑える
  風衝荒廃地と周辺の林地とを比較すると、林地では土壌の凍結、凍上が少なく、地表面が安定していることが知られています。しかしながら、風衝荒廃地における樹木や草本などの植生の役割について、地表面付近の熱の流れという視点から調べた研究はありませんでした。そこで、風衝荒廃地の地表面付近に熱の流れを測定するためのセンサーを埋め込み、緑化試験区と対照区とで地表(地下1cm)の熱流量を観測しました。さらに、奥羽山脈稜線部の多雪地帯にある、冬季間深い積雪に覆われて凍上も風衝荒廃も全く見られない秋田県鹿角市の伐採跡地(図1)でも同様の観測を行い、地表面の冷却過程を比較検討しました。
 その結果、表1および図2に示すように、風衝荒廃地を緑化することにより、地表面の熱流量(負の値は地表面の冷却量を示す)は対照区の裸地面と多雪地帯(鹿角市の伐採跡地)との中間程度となり、冬季間の最大凍上量は対照区の半分以下に抑えられることがわかりました。すなわち、緑化試験区の地表面には、写真2に示すような植被層と、枯れ草やむしろ等の地被物およびそれらに捕捉された積雪層があるために、これらの断熱効果が布団のように地表面を保護し、風衝荒廃地拡大の原因となる凍上を抑制していることが明らかになりました。


表1.各観測地点における最大凍上量(cm)
表1 各観測地点における最大凍上量
注)鹿角皆伐区では、1997年度、1998年度には
観測を行いませんでした。
図2 各試験地における地表面の冷却過程
図2.各試験地における地表面の冷却過程
(負の積算地中熱流量は、地表面の冷却量を表す。)
<実行課題>

イイ5c 積雪地域の森林流域における環境保全機能の評価手法の開発

担当者:齋藤武史(東北支所チーム長)、北田正憲(地域林業室長)
  研究の森からNo.122号平成16年3月31日発行
    編集・発行:森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係
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